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龍馬伝 第8話「弥太郎の涙」

 21歳で江戸に遊学した岩崎弥太郎は安積艮斎(あさかごんさい)の塾で学んだ。しかし1年ほどで帰国するはめになる。父・岩崎弥次郎の投獄の知らせを受けたためであった。

 ドラマでは、庄屋・島田便右衛門が田んぼの水を独り占めしたため、そのことを抗議に行った弥次郎が、大勢に殴る蹴るの暴行を受け、半死半生のめに遭ったとあったが、司馬遼太郎著の「竜馬がゆく」村上元三著の「岩崎弥太郎」などでのこのエピソードは、弥次郎の酒乱が引き起こした喧嘩沙汰とされている。岩崎家があった土佐安芸郡井ノ口村に暮らす人たちはとにかく気性があらかったようで、何かにつけすぐに暴力沙汰におよんだらしい。そんな井ノ口村の中でもとりわけ悪評の高かったのが、この岩崎弥次郎・弥太郎親子だったそうである。

 弥次郎の起こした騒動にドラマのような理由があったのか、それとも酒の所為での喧嘩だったのかはわからないが、集団リンチを受けて半死半生になったのは本当のようで、そしてその後一方的な裁きを受けたのも本当の話である。江戸から戻った弥太郎は、村中を駆け回り事件の真相を調べ、父の冤罪を求めて訴え出たが、既に奉行所には庄屋の袖の下がまわっており、取り上げられることはなかった。それでもおさまらい弥太郎がとった行動が、ドラマ中にあった落書きである。
「官以賄賂成」(官ハ賄賂ヲモッテ成シ)
「獄以愛憎決」(獄ハ愛憎ヲモッテ決ス)

 金と感情で裁判をするという意味である。これでは無事にすむはずがなく、弥太郎は投獄される。岩崎弥太郎という人物の酷烈すぎる性格がうかがえるエピソードである。

 奉行所の裁きを不服とした弥太郎と龍馬が、吉田東洋のところへ直訴に行く話があったが、この話はもちろんドラマのオリジナル。そもそもこの弥次郎の喧嘩沙汰に龍馬が関わっていたことすらない話なのだが、それにしてもこのドラマでの吉田東洋はダーティーに描かれ過ぎ。確かに東洋といえば、上士・下士の身分にこだわる権力主義者に描かれることが多いが、その実、身分にとらわれず有能な者を登用するといった合理的な考えを持った人物でもあった。現実に、こののち弥太郎は蟄居中だった東洋が開いていた少林塾の門人になり、そこで明晰さが東洋の目にとまり藩職に就くこととなる。ただ、ドラマ中で「わしは天才じゃき。」と言っていたように、東洋という人は、自分の頭脳に自信過剰であり過ぎた。あり過ぎたが故に、武市半平太率いる土佐勤皇党のみならず、藩内の保守派からも敵視され、命を落とすことになる。

 駄目親父のおかげで、あれほど夢だった江戸遊学を中途半端なかたちで終わらざるをえなかった弥太郎。おまけに帰郷するなりの投獄では踏んだり蹴ったりである。どこまでも運がない弥太郎に思えるが、この獄中で、のちに三菱王国を築く基礎となる算術や商法を学ぶこととなる。江戸でも学べなかったものを獄中で学ぶことになるとは、幸運というのはどこに転がっているかわからないもので、そこに偉人の人生の面白さがある。


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by sakanoueno-kumo | 2010-02-22 00:59 | 龍馬伝 | Trackback(4) | Comments(2)  

Tracked from よかったねノート 感謝の.. at 2010-02-22 12:59
タイトル : 龍馬伝「弥太郎の涙~慟哭のヒーロー」
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Tracked from ※悠然と,冷静に,熱く生.. at 2010-02-22 15:36
タイトル : 龍馬伝8 弥太郎の涙
今日の弥太郎の汚さはすさまじかったですねー(^_^;)...... more
Tracked from 徒然”腐”日記 at 2010-02-23 06:34
タイトル : 大河ドラマ「龍馬伝」第八回『弥太郎の涙』
昨夜メール更新しようと思って楽天に送信したのに受信してなかったんだか何なんだか表示されず結局更新を断念・・・・・・・・我が家の夕飯のよせ鍋の画像だったからね、別に良いんだけど・・・・・・いつの間にか下書き保存用のボタンも無くなって益々使いにくくなってま...... more
Tracked from 平太郎独白録 親愛なるア.. at 2010-02-24 17:03
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Commented by おりょう at 2010-02-22 23:30 x
こんにちは 
たかが落書きだけど、きっと弥太郎は死も覚悟していたんでしょうね。 歴史に名が残る人は やることが違いますね。 
このドラマでも 獄中で勉強を教えてもらえるんでしょうか? いつも不満だらけの弥太郎の喜ぶ顔が見たいです。
Commented by sakanoueno-kumo at 2010-02-23 13:54
< おりょうさん。
この時代の侍というのは、己の自尊心を守るためには命をも惜しまないんですね。
現代の自殺者のようなネガティブな心でのそれではなく、強い意志のもとで皆命を賭けて生きている・・・無駄に命を捨てることを好まなかったといわれる龍馬や弥太郎でも、根底の精神は一緒だったと思います。
私など、命を取られるぐらいなら自尊心なんて・・・現代人は軟弱です。

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