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江~姫たちの戦国~ 第15話「猿の正体」

 「小牧・長久手の戦い」で予想外の敗北を喫したものの、その後、巧みな政治手腕によって結果的に徳川家康を臣従させた羽柴秀吉は、翌、天正13年(1585年)3月には「紀州攻め」に成功し、そして同年6月には「四国攻め」を開始した。この「四国攻め」とは、同年3月に四国統一を成し遂げていた長宗我部元親との戦いのこと。天下統一を目指す秀吉は、重要な航路と考える瀬戸内海を完全に掌握するためには、四国全土を領地にしていた長宗我部氏は目障りな存在、そこで四国出兵を考えるようになったという。当初は、秀吉・元親とも交渉による和解を模索していたといわれるが、領土配分を巡る対立を解消できず、交渉は決裂した。

 この戦いに、秀吉は参戦していない。一般には病気だったといわれているが、越中の佐々成政が不穏な動きを見せていたためとの説もある。その真意はわからないが、秀吉が大坂城に残ったため、弟の羽柴秀長を総大将とし、甥の羽柴秀次を副将としての出陣だった。羽柴軍10万に対して長宗我部軍4万。圧倒的な兵力差によって秀吉軍は優位に戦いを進め、讃岐、伊予、阿波と、次々に要地を失い孤立化した長宗我部元親は、やむなく8月に降伏した。この戦役で、「小牧・長久手の戦い」「紀州攻め」と、自軍に大きな損害を与えて秀吉から叱責を受けていた秀次も、数々の戦功をあげたという。ドラマのように、秀次を独り立ちさせるための“仮病”だったかどうかはわからないが、秀次を羽柴家の跡取りと考えていた秀吉は、さぞや胸を撫でおろしたことだろう。

 秀次を独り立ちさせるにはどうすればいいかと、江に尋ねた秀吉。もちろん、この話はドラマのオリジナルだが、秀吉は家臣たちの意見をよく聞き、尊重したという。このあたりが、信長とはまったく違うリーダーシップだった。こんな話がある。秀吉は、軍議を開くにあたって、必ず家臣たちに意見させたという。しかし、秀吉の中では既に答えはあった。しかし、自分の考えを言わず、家臣たちに考えさせる。そして一人ずつ意見させ、誰かが自分と同じ考えを述べると、「なるほど、よう申した。考えも及ばなんだ名案じゃ。この件、そちに任す。励め。」と激励する。そう言われた家臣は、気分が悪いはずがない。自分の意見が採用されたという喜びと、自分が任されたという責任感で、飲まず食わず働き、120%の力を発揮したという。

 いかにも「人たらし」といわれた秀吉らしいエピソードだが、これはなかなか出来ることではない。私たちの社会を見渡してみると、明敏な頭脳を持っていればいる者ほど、往々にして人の意見を聞かないものである。自分の中に答えがあるのだから、人の意見を聞く必要がない。どうせ的外れな意見しかないと、端から聞く耳を持たないか、仮に自分と同じ考えを述べる者がいたとしても、「そんなことはお前に言われなくともわかっている!」となってしまう場合がほとんどだろう。いってみれば、織田信長がそうだった。おそらく同時代において、彼ほどの頭脳を持った人物は他にいなかったであろうことを思えば、信長にとって信ずるのは自分だけ、自分以外の人間の意見を聞く必要がなかった。故に、信長にとって家臣は道具でしかなかった。自分の頭脳を生かすための道具であればよかったのである。しかし、心を持った人間は、道具ではなかった。それが、「本能寺の変」を招いたといえる。

 秀吉は信長ほどの天才ではなかった・・・と思う。秀吉がやったことは、信長がやろうとしていたことの延長線上で、より具体化したに過ぎない。しかし、秀吉が信長に勝っていた才能・・・それが、“人使い”だった。彼は持ち前の明るさで人々を魅了し、ときには人を操るため馬鹿にもなった。武家の嫡男として生まれた信長と、卑賤の身から成り上がった秀吉の生い立ちの違いといえばそれまでだが、秀吉には、天性の「人の上に立つ者の資質」があったからこそ、成り上がったのだと私は思う。後年、独裁者となった晩年の秀吉は、その資質をどこかで失ってしまうが、それまでの秀吉は紛れもなく「人使いの天才」だった。

 「猿は大嘘つきです。でも、その大嘘の中に“まこと”があるのです。その“まこと”に、人は心を動かされてしまうのです。」
 「人たらし」と異名をとる羽柴秀吉。しかし、八方美人的な上辺だけの「人たらし」では、人は心からは動かされない。彼は、良きにせよ悪しきにせよ、相手に自分を曝け出せた人物だったのではないかと思う。近年、ダーティーに描かれることが多い秀吉で、たしかに彼の政治力というのは、調略や懐柔など寝技的な手法が目立ち、いってみれば現代の小沢一郎のようなものだが、なぜか後世に人気の高い秀吉。その理由は、彼の持つ“陽気”なイメージに他ならない。作家・司馬遼太郎氏は、小説「新史太閤記」の中で秀吉の人気の高さについてこう述べている。
 「陰気な舞手は、たとえ巧みに舞ってもひとびとはその巧みさよりもその欠点に目がゆく。逆に陽気な舞手ならば、少々下手に舞っても、観衆はその陽気にまどわされ、つい欠点に目がゆかず、長所にのみ目がゆく。」
 人間社会において、“陽気”さは最大の武器かもしれない。小沢さんには・・・どうやらそこが、最も欠けているようである。


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by sakanoueno-kumo | 2011-04-25 03:00 | 江~姫たちの戦国~ | Trackback(2) | Comments(7)  

Tracked from ショコラの日記帳 at 2011-04-25 14:02
タイトル : 【江~姫たちの戦国~】第15回と視聴率「猿...
第15回の視聴率は、前回の19.2%より下がって、18.0%でした。今更、秀吉をいい人みたいに描いてもねぇ・・・(汗) 秀吉に勝手に離縁させられた江は、怒って、秀吉に復讐を誓いまし...... more
Tracked from ドラマQ at 2011-04-25 23:18
タイトル : 江~姫たちの戦国~
江~姫たちの戦国~ 日曜 20:00 NHK 2011年1月9日~  【キャスト】 上野樹里 宮沢りえ 水川あさみ 豊川悦司 鈴木保奈美 向井理 平岳大 AKIRA 大地康雄 萩原聖人 ミムラ 鈴木砂羽 斎藤工 柴俊夫 草刈正雄 富田靖子 岸谷五朗 奈良岡朋子 市村正親 石坂浩二 大竹しのぶ 北大路欣也 他 [公式サイト] http://www9.nhk.or.jp/go/top.html 【概要】 信長の妹・市を母とし...... more
Commented by ブラック奄美 at 2011-04-25 10:57 x
>「猿は大嘘つきです。~人は心を動かされてしまうのです。」
⇒この青文字の台詞が、今回のメインテーマであったように思います。そこで、江がこのように秀吉に対する認識を改めた経緯を遡ってたどってゆくと、秀吉に対する憎しみは、二度の落城経験、実父及び義父を殺されたこと、そして佐治一成に対しても強制的に結婚させられ、強制的に離縁させられたこと。そして姉、茶々に対して抱く秀吉の邪心・・・・などというものがあります。そして、今回、その憎しみを変化させるきっかけとなったのは、これすべて秀吉の周囲の人物のコメントによるものばかりです。それも、これまでの歴史ドラマの中で散々言い古されてきた秀吉観ばかりが並びたてられる。江自身が直接的に経験したことといえば、例の信長幻影演出の後の、秀吉の江に対する謝罪ぐらいでしょうか。これらの経緯を経た後、前述の青文字の台詞に到るわけですが・・・・ここまでのストーリー設計というか、台詞を発するに到る伏線というか・・・いかにも弱い・・・・というのが私の印象です。今となっては「仁」を観た後ですから、余計にその思いは強いですね。
(続く)
Commented by ブラック奄美 at 2011-04-25 11:13 x
これは「江」に限らず、ここ数年来の大河ドラマに見られる傾向かと思いますが、「解説的、説明的」な台詞だけで片付けてしまうケースが増えてきているように思います。そして主人公自身の実体験が無い、もしくは実体験があったとしてもその影響が、例えばコント的な演出、ギャグ的な演出に紛れてその印象は非常に薄い。このような経緯を経た後、突然に総まとめ的な台詞を発せられても、その台詞は「その人物のものになっていない」感が満載です。そして台詞を発した人物のものになっていない台詞が、視聴者に違和感無く伝わるはずもなし・・・・・と、私は、今回のドラマを見て率直に思いました。過度に否定的な見方は不要かとは思いますが、自分自身の率直な感想もしっかりと刻んでいきたいと考えています。
Commented by sakanoueno-kumo at 2011-04-25 18:00
< ブラック奄美さん
>ここまでのストーリー設計というか、台詞を発するに到る伏線というか・・・いかにも弱い
これについては私も反論はありません。
ていうか、私も同じように感じました。
「猿の本性」といったタイトルですから、秀吉に対する江の恨みつらみの気持ちを、どうやって動かすのか・・・と、思いきや、なんてことはなかったなぁ・・・というのが正直な感想でした。
だから、ドラマのストーリーにはあまり関係ない、本稿の文章となりました(苦笑)。
以前、紹介した、『篤姫』での調所笑左衛門や井伊直弼のときとは違いましたね。
こういった、率直に“面白い”“面白くない”の感想の声はあって当然だと思います。

これまで本ドラマを観てきて率直に思うのは、出来の良い回とそうでない回の差が激しいな、という感想ですかね。
まあ、1年間の長丁場ですから、どの作品にも中弛みのような回はあるとは思いますが、特に勝家とお市が死んで以降、私の中でも今イチ入り込めない回が続いているのも事実です。
歴史の動きで見ても、乱世が終わって落ち着きを見せ始めた時期ですからね。
ここからの巻き返しに期待したいところです(笑)。
Commented by SPIRIT(スピリット) at 2011-04-25 18:27 x
「猿は嘘つきだが、その嘘のなかにまことがある。」というテーマが伝わりにくかったのがちょっと残念。
今回ほどダーティーで権謀術数に長けた秀吉は見たことがなかったですし。


P.S. そういえば、現代の政治家で言うと、小泉純一郎氏が秀吉に近いかもしれませんね。
『暗い小泉』が小沢氏で、『明るい小沢』が小泉氏だと聞いていますし。

ちなみに僕自身は秀吉や龍馬と真逆の『重』で『暗』の気質だけど(^_^;)
だから土方歳三を理想としてます。
Commented at 2011-04-26 14:50 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by sakanoueno-kumo at 2011-04-26 23:31
< SPIRIT(スピリット)さん
秀吉の描かれ方が酷くなってきたのは、近年の共通した傾向だと思います。
これは、のちの朝鮮出兵などの行いによる、お隣りの国への配慮・・・などという人もいますが、私は昭和の時代の秀吉観と、平成の現代の秀吉観が変わってきているのだと思っています。
昔は、立身出世の代名詞のような秀吉でしたが、今では出世欲に執着したマキャベリストとして描かれる・・・これも、時代背景によるものかと・・・。

小泉さんと秀吉は違うでしょう。
小泉さんと小沢さんの話もよくわかりません。
あの人は、秀吉や小沢さんと違い、執着心が微塵にも感じられなかった人ですから。
Commented by sakanoueno-kumo at 2011-04-27 00:19
< 鍵コメさん
委細、承知いたしました。
時間があるときに、ゆっくり読ませてもらいます。

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