江~姫たちの戦国~ 第27話「秀勝の遺言」

 お江が二人目の夫・豊臣秀勝の忘れ形見である長女・豊臣完子(さだこ)を産んだのは、ドラマのとおり秀勝の戦病死の報に接した頃と推測されている。かつて天正12年(1584年)に佐治一成と結婚したお江だったが、当時のお江は数えで12歳という少女で、しかも数ヶ月という短期間の結婚生活であったことから、名実ともに夫婦となり得ていたとは考えづらい。しかし、それから8年が経った文禄元年(1592年)当時のお江は成熟した大人の女性で、完子という子宝に恵まれたのは自然といえるだろう。

 その初めての出産の前後に秀勝の戦病死の報に接したお江。夫を戦場に送り出した以上、生きて帰らないかもしれないことは覚悟の上のことだとしても、このタイミングでの秀勝の訃報はあまりにも酷な話。ドラマのように、夫の死の現実をそう簡単に受け入れることはできなかっただろう。出産の喜びとは、夫婦揃っていてこその喜びだと私も思う。夫の死の知らせを受けた直後の出産だったとすれば、どんな思いでその痛みに耐えたか、経験のない人間には想像もつかない。ましてやそれが初めての出産ならば、なおのことである。生まれた完子を抱くことができなかったお江の気持ち・・・何となく、わかるような気がする。

 父の顔を知ることなく育った完子は、この3年後の文禄4年(1595年)に母のお江が徳川秀忠と再々婚をすることになったため、叔母である淀殿に養育されることになる。一般に、悪女という評価が定着している感がある淀殿だが、妹のために一肌脱いだこのエピソードから想像すれば、ドラマのように、少なくとも妹たちには良き姉だったようである。通説では、その後、完子は織田信長の嫡孫である織田秀信と婚約、もしくは結婚したとされてきた。この秀信という人物は信長の嫡子・織田信忠の長男で、天正10年の「清洲会議」の際に豊臣秀吉(当時は羽柴秀吉)が手懐けた、あの三法師のことである。しかし、近年では完子が秀信と婚約、もしくは結婚していたという説に対して、否定的な意見が少なくない。

 そして、慶長9年(1604年)、13歳になった完子は、公家である九条忠栄御簾中(正室)に迎えられることになる。おそらくこの婚儀は、生母であるお江の意向を汲んだものでもあったであろう。お江は完子の他に、秀忠との間に二男五女の子宝に恵まれたが、その多産のDNAを受け継いだ完子も、忠栄との間に九条道房をはじめ四男三女をもうける。九条家は藤原北家流で、五摂家のひとつに数えられる名門中の名門で、古くから朝廷の摂政、関白を務めた人物が数多く存在し、完子の夫となった忠栄も第107代・後陽成天皇と第108代・後水尾天皇の関白を務め、その子の道房も、第110代・後光明天皇の摂政を務めている。忠栄と完子の夫婦仲も仲睦まじかったようで、不幸な出生に始まった完子の人生だったが、思わぬ幸せな人生が待っていた。

 いうまでもなく、お江と徳川秀忠の間に生まれた二男五女と完子は異父兄弟姉妹にあたる。その異父弟の徳川家光が江戸幕府第三代将軍となり、異父妹の東福門院和子は後水尾天皇の女御となって第109代・明正天皇(女帝)を産んだ。将軍や国母(天皇の母)の異父姉であり、「最後の豊臣家の人物」ともいうべき完子が、こうして京都で公家の御簾中として幸せに暮らしたというエピソードは、一般にはあまり知られていない。

 完子は異父弟の家光よりも長生きし、万治元年(1658年)、67歳で病没する。そして、その血脈は歴史の中に生き続けた。完子の子孫は代々関白を歴任し、大正天皇の正妻となる貞明皇后に続いている。つまり、織田家浅井家豊臣家の血を引いた完子の血脈が、昭和天皇、そして今上天皇にも繋がっているというわけである。お江の不幸な出産によって生まれた完子が、歴史上、極めて貴重な、存在感のある女性となったことに、歴史の綾の不思議さ、面白さを感じずにはいられない。


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by sakanoueno-kumo | 2011-07-19 01:42 | 江~姫たちの戦国~ | Trackback(1) | Comments(0)  

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