江~姫たちの戦国~ 第34話「姫の十字架」

 明智光秀の三女として生まれた、たま(珠、玉、玉子)は、天正6年(1578年)、15歳のときに織田信長のすすめで、当時、乙訓一帯を支配していた戦国大名で勝龍寺城主・細川藤孝の嫡男・細川忠興のもとに輿入れした。たまは、聞きしに勝る絶世の美女だったとか。そんな彼女を忠興は愛し、ほんのひととき、勝龍寺城で幸福な新婚時代を過ごした。

 天正10年(1582年)6月2日、父である明智光秀が本能寺において主君・織田信長を討った、いわゆる「本能寺の変」が起き、その光秀も山崎の合戦において敗北、落命したため、たまは「逆臣の娘」となり、細川家内でも難しい立場になる。処刑もしくは離縁をすすめる父・藤孝に対して、たまを溺愛していたためどうしても離縁できない夫・忠興は、彼女を丹後の山奥深くの味土野という山里に隔離、幽閉してしまう。生まれたばかりの長男、のちの細川忠隆からも引き離され、わずかな侍女たちとともに人目を憚りながら暮らすこととなった彼女は、この間に、身分の分け隔てを超えた“人間愛”のような思想に目覚めていったという。

 2年後の天正12年(1584年)、天下人となりつつあった羽柴秀吉のとりなしもあって、忠興はたまの幽閉を解き、大坂城下玉造の細川家屋敷に住まわせた。しかし、そこでの生活は彼女にとって、幸せな日々ではなかった。夫・忠興のたまに対する溺愛ぶりが幽閉前よりさらにエスカレートし、度を越した嫉妬心で彼女を縛った。彼女が他の男と口をきくことを嫌がり、さらには彼女が他の男の目に触れることさえ疎んじ、屋敷から一歩も外に出ることを許さなくなった。一説には、たまの美しさに見とれてはしごから落ちた植木職人を、その場で手討ちにしたという逸話もある。今でいえば、ストーカー的というか、ちょっと偏執的な性癖があったようである。

 そんな大坂屋敷での生活に悩んでいたたまは、忠興が九州征討に出陣した留守中、カトリックの教えを聞きに教会へ足を運び、そこでの教えに感銘を受け、ついには洗礼を受け、“ガラシャ”という名を賜る。“ガラシャ”というのはラテン語で、“神の恵み”“神の恩寵”という意味。その後も死ぬまで熱心に信仰を続けたガラシャだったが、その名のとおり“神の恩寵”があったかといえば、この世に神も仏もないほど悲しい最後となる。

 秀吉の死後、再び天下に暗雲が立ち込め、徳川家康石田三成の対立が激化。ドラマにもあったように、徳川家康が上杉討伐のため挙兵した際、細川忠興もこれに従って出陣。しかし、家康が大坂を空けるやいなや、石田三成が徳川討伐を掲げて挙兵。徳川に与した大名・武将の大坂に残った妻たちを人質に取ることを企てる。当然、忠興の正室・ガラシャにも、石田方の手は伸びた。ところが、ガラシャは石田方の人質要請を頑なに拒否。彼女は三成の軍にかこまれると、屋敷に火を放ち、家老の小笠原少斎に胸をつかせて潔くを選んだ。享年38歳。自害を選ばなかったのは、キリスト教では自殺は大罪であり、天国へは行けないという教えがあったためだといわれている。

 ドラマでは、愛する夫のために死を選んだ・・・という設定になっていたが、通説ではもっと悲惨な話である。忠興は出陣前から三成の挙兵を予測していて、先にも述べたように度を越した嫉妬心の持ち主だった彼は、もしガラシャを人質に取られそうになったら、その前に彼女を殺すように家臣に命じていたという。石田方の人質になることなど許されるはずもなく、かといって、家臣に妻を託すことさえ、忠興にとっては耐え難いことだった。

 そんな忠興の性癖を知っていたガラシャは、家臣に自分を始末するよう夫が命じていたことも悟っていた。知った上で、潔くその運命に従ったのである。そんな偏執的な性癖の夫を、彼女が心から愛していたとはとても思えず、彼女にとっては彼女なりの戦いだったのかもしれない。その相手は、徳川でも豊臣でもなく、夫・細川忠興だったのではと・・・。元より彼女は、本能寺の変で「逆臣の娘」となって以降、この日を待っていたのかもしれない。もしそうだとすれば、彼女にとってこの死は、“神の恩寵”だったのだろうか。

 辞世の句
 散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ

 花も人も、散りどきを心得てこそ美しいのだ・・・という意味。細川ガラシャことたまの、壮絶でありながら美しいその生涯は、まさしく「姫たちの戦国」である。


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by sakanoueno-kumo | 2011-09-05 03:09 | 江~姫たちの戦国~ | Trackback(2) | Comments(2)  

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Tracked from ショコラの日記帳 at 2011-09-05 11:05
タイトル : 【江】第34回と視聴率「姫の十字架」
【第34回の視聴率は、9/5(月)追加予定】今回、一番ウケたのは、江が戦が嫌だから、百姓になると言って、百姓姿の想像をしたシーン(笑)確かに、格好は秀忠と2人共、似合いました...... more
Tracked from 早乙女乱子とSPIRIT.. at 2011-09-08 21:44
タイトル : 戦国の女 〜江・姫の十字架〜
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Commented by heitaroh at 2011-09-07 16:45
細川忠興はガラシャ入信を助けた侍女の鼻をその場で削いだと言いますが、あのおっさんならやりかねないですね。
Commented by sakanoueno-kumo at 2011-09-07 22:23
< heitarohさん。
そんな話もありましたね。
ところがドラマでの忠興は、ガラシャの信仰に理解を示すような台詞を吐くんですよ。
なんだかなぁ・・・と。

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