大河ドラマ『平清盛』における「王家問題」について。

 今年のNHK大河ドラマ『平清盛』で、院政時代の天皇家のことを「王家」と呼んでおり、そのことで物議をかもしているよいうですね。時間が経てば批判の声も静まってくるかと思っていたのですが、一向にその気配は見られず、むしろ、さらにエキサイトし始めている感さえあります。この「王家」という呼称を抗議する人たちの声としては、

「王」とは「天皇」よりも下の位であり、「天皇」=「王」という解釈は間違いである。現に韓国人が天皇のことを「日王」と蔑む意味で呼んでいるように、「天皇家」「皇室」と呼べばいいものを、あえて「王家」と呼ぶのは天皇家を侮辱する行為である。

というもの。これに対してNHKの反論及び、それを擁護する人の声としては、

「王家」という呼称は中世を扱う歴史学では主流となっている用語で、当時の史料の中にも見られる言葉である。むしろ、「天皇」という呼称は当時からあったものの、「天皇家」「皇室」といった用語は近代になって作られたもので、この時代の物語に使用するのは不適切である。

ということだそうです。ドラマが始まって俄に聞こえてきた声だと思っていましたが、実は昨年夏に同ドラマのHPが公開されたときから騒がれていたようですね。まったく知りませんでした。正直、私はこの種の知識に明るくなく、そんな素人の私がここで迂闊な私見を述べて、当ブログを炎上の危機に晒すよりも、黙って騒動が終わるのを見ている方が得策だとは思いますが、ドラマ放送開始早々、思いのほか視聴率がとれていない理由までもが、この「王家問題」のせいだといった記事も見かけられ、それは違うんじゃないかという思いから、少しだけこの件にふれてみたいと思います。

 「王家」という呼称が歴史学的に正しいのかどうかは、私にはよくわかりません。たしかに、日本史の中では聞きなれない用語ではありますよね。ただ、この用語が、批判する方々のいう「天皇家を侮辱する」といった意味で意図的に使われているとは、少なくとも第1話と2話を観る限りでは感じられませんでした。むしろ、天皇家こそが国家の中枢と見なす歴史観に則った描かれ方だったのではないでしょうか。そして清盛たち武家は、その天皇家に仕える武力担当にすぎなかったという解釈です。劇中でいう「王家」とは、広い意味での王権を掌握している「家」を指すもので、地位を指すものではないと思われます。劇中、清盛たち武家のことを「王家の犬」という言葉で表現していましたが、これをもし「天皇家の犬」なんて台詞で表現していれば、それこそ抗議が殺到したんじゃないでしょうか。

 別の用語として、「朝廷」とか「朝家」といった呼称もあります。おそらく、こちらが最も無難な用語で、これを使っていればおそらく大きな騒ぎにはならなかったでしょう。でも、「朝廷」とは藤原摂関家なども含めた公卿全体を指すものだと思いますし、私の勝手なイメージなので間違っているかもしれませんが、「朝廷」という言葉は現代で言うところの「政府」のようなもので、政を司る公的機関を表した言葉のように感じます。ですから、「朝廷の犬」なんて言われてもピンとこないですよね。つまり、天皇家に仕える身に過ぎなかった武士が、平清盛という人物の出現によって自分たちの実力に気づき、武家政権という新たな王権を作った・・・という物語の設定上、「王家」という用語が一番シックリくるという判断のもとに使われたのでしょう。

 そうしたドラマの内容を論じることなく、ただ「王家」という呼称だけをとらえて、ドラマ開始前から、やれ「反日」だの「自虐史観」だのと批判する声には、正直寒いものを感じます。純粋にドラマを楽しみたいと思っている者にとっては、ドラマにイデオロギー論争を持ち込まれても「またか・・・」といった感じでウンザリします。っていうか、昨年夏から騒がれているということからみれば、批判する人にドラマは関係ないわけで・・・。もとより大河ドラマなんて観ない人までもが騒いでるわけでしょ。純粋な大河ファンにとっては迷惑な話です。先日、「画面が汚い」などと的外れな批判をしてバッシングを受けていた何処かの県の知事さんがいましたが、あっちの方がまだマシです。大河ドラマを観光PR用のものと勘違いしたような発言ではありましたが、少なくとも、ちゃんとドラマを視聴した上での個人的感想ですから(知事という立場でそのような私見を述べるべきかどうかは別として)。

 私が危惧するのは、今回の騒動がきっかけとなって、また、天皇家をドラマに出すことに遠慮が出来ることです。実際、今年で大河ドラマは51作目だそうですが、その内、戦国期・江戸期・幕末維新期を舞台にした作品が40作以上を占めており、中世を舞台にした作品はこの度の『平清盛』を含めて5作品しかありません。これは、戦国期や幕末期がそれだけ人気が高いという理由もあるでしょうが、中世を描くとなると、どうしても天皇家を描かざるを得ず、非常にデリケートな部分に踏み込まなければならないから、といった理由もあるように思います。そこに久々にチャレンジした今回の作品でしたが、案の定、放送開始前からバッシングの嵐となってしまいました。これを見たドラマ制作者の方々が、今後この時代を題材にすることを躊躇するようなったとしたら、たいへん残念な話です。

 ちなみに、劇中で源頼朝に対して「殿」という敬称で呼んでいましたが、この時代、「殿」は摂政関白を指す言葉で、武家の主君が「殿」と呼ばれるようになったのは戦国後期から。この時代の武士の主君の呼び方は「お舘様」が正解でしょう。「王家」の呼称が批判されるなら、この「殿」にも批判が集まってよさそうなものですが、こちらはあまり聞こえてきません。「殿」でも「お舘様」でもイデオロギー的には何の問題もありませんからね。そんなところを見ても、この度の批判が歴史とは関係のないところで叫ばれているということがわかります。

 ちなみにちなみに、放送開始早々の視聴率が悪かったのは、「王家問題」とはまったく関係なく、昨年の『江~姫たちの戦国』の後半の視聴率低迷の余波にすぎないと思います。今年の作品が面白ければ、徐々に数字は上がって来るでしょう。むしろ、出だしの視聴率が低かったことで、軟化して批判の声に負けるようなことがあれば、そのほうが本来の大河ファンが離れていく結果を呼ぶでしょう。ぜひとも姿勢を貫いて欲しいと思います。


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by sakanoueno-kumo | 2012-01-20 15:19 | 平清盛 | Trackback(1) | Comments(8)  

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Tracked from 早乙女乱子とSPIRIT.. at 2012-01-22 21:16
タイトル : 上総御曹司 〜平清盛・源平の御曹司〜
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Commented by しばやん at 2012-01-22 16:12 x
「王家」問題は、私もよくわかりません。当時の史料にも出ているものであれば、それほどエキサイトする意味はないのかも知れせん。

「平清盛」の視聴率が低いのは、「王家」問題とは関係なく、私も「江~姫たちの戦国」の視聴率の低さが引きずっているのだと思います。今回はかなり面白そうなので、正直なところ期待しています。
Commented by sakanoueno-kumo at 2012-01-23 20:36
< しばやんさん
当時の史料の中で、「王家」と表記しているものもある・・・というレベルで、主流として使用された呼称ではない、というのが、批判する方々の言い分のようです。
でも、じゃあ当時の天皇家がどのように呼ばれていたかはわかりませんし、少なくとも「天皇家」ではないようです。
呼び方なんてどうでもいいとは思いませんが、「反日」とか「自虐史観」といった批判になると、正直言ってウンザリします。
面白くなりそうな作品だけに、くだらないことでケチをつけて欲しくない思いです。
Commented by いち大河ファン at 2012-01-25 23:51 x
「王家」については、え?そんなことが以前から話題になってたの??というのが、正直な感想です。
王家使用が昨夏から大問題となっていた、などというネット記事を読みましたが、ごく一部の方々だけが騒いでいた話なのでは?と思えて仕方がありません。
私は普通にネットを使い、普通に大河に期待し、普通に大河に関する情報をネット上で収集しましたが、例の県知事発言騒動を検索したときに、初めて「王家」なるワードも騒がれていることを知りました。
ネットに没頭して暮らしていると、ネットの世界が世界のすべてのような錯覚を引き起こす・・・
王家問題が、低い視聴率の原因というような荒唐無稽な分析は、そういうネットの錯覚から生まれてきたものだろうと私は思っています。
昨年と異なり、今年の大河は、多くの大河ファンには好評の内容でスタートしているので、「王家」に固執してのエキセントリックな番組批判は、いささか滑稽ですらある、と感じています。
Commented by sakanoueno-kumo at 2012-01-26 11:18
< いち大河ファンさん

>ネットに没頭して暮らしていると、ネットの世界が世界のすべてのような錯覚を引き起こす

おっしゃるとおりですね。
『江』の総評のコメントでもいいましたが、ネット社会は過激な意見ほどウケる社会で、これを世論だと思うのは大間違いだと私も思います。
「へぇ〜、そんな声もあるんだ・・・」といった程度に聞き流すぐらいがちょうどいいのでしょうね。
その意味で、私も当初はこの「王家」問題に首を突っ込むつもりはなかったのですが、この種のイデオロギー絡みで批判する方々というのは、譲歩するといった姿勢がまったくありませんからタチが悪く、しかもしつこい!
私も、どちらかと言えば右傾の考えを持つ人間ですし、おそらく日本人はそのほう多いだろうと思いますが、この種の過激な批判を繰り返すネットウヨたちの論調には、甚だ辟易するところです。
フルボリュームで軍艦マーチを流しながら街中を横行する右翼の街宣車と同じで、それがかえって右傾思想のイメージを悪くしているということがわからないんですかね。

本稿の中でもいいましたが、ドラマにイデオロギー論争を持ち込まないで欲しいと切に願います。
Commented by 一大河 at 2012-01-31 16:01 x
わたしも、王家呼称問題について記事に書きました。
炎上はしませんでしたし、私の意見に賛同していただける方もありました。
むしろ某兵庫県知事の批判についての記事の方が
ヒートアップした感がありますね。
ラジオの取材まで受けましたし(笑)

最初は「王家」という呼称には違和感を禁じ得ませんでしたが、
記事にあるように、歴史学的に正しいかどうか、さらには、
語学として皇室や朝廷という言葉で中世の天皇を表現することは
正しいかどうか、という点もあると思います。

わたしは、保守思想自体は支持しますし、いま最も必要とされている
思想であると思いますが、今回の王家呼称騒動については、意にそぐわぬと
感じた作品を、イデオロギーを基点として、すなわち左翼だとか、
反日だとかのレッテルを貼ることは危険であると思いますね。

書きたいことは山ほどありますがこのへんで…
長文失礼いたしました。
Commented by sakanoueno-kumo at 2012-02-03 00:25
< 一大河さん

兵庫県知事の批判に関しては、くだらなさ過ぎて論じる気にもなりません。
「王家」に関しては本文中でも述べたとおり、その呼称が正しいかどうかということよりも、ドラマを内容を論じることなくその言葉だけを捉えて敏感に反応する極右の方々に、単純に嫌悪感を感じます。
Commented by 吉岡 at 2013-09-18 08:47 x
ドラマにイデオロギーを持ち込むなという意見には賛成ですが、NHKがイデオロギー的な匂いのする「王家」という用語を採用したことがそもそもの騒動の起こりだったと認識しています。普通に皇室でも皇家でも天皇のご一族でも何でも良かったんじゃないでしょうか。聞きなれない「王家」をあえて使う必然性は感じません。
Commented by sakanoueno-kumo at 2013-09-19 00:17
< 吉岡さん

私は専門家ではないので詳しいことはわかりませんが、「皇室」や「皇家」という表現こそ明治以降の新しい表現で、当時の言葉として使用するのは適切ではないという見解だったと思いますよ。
「王家」という呼称は、少ないながらも当時の史料に見られるそうです。
これは学会でも使われているそうです。

聞きなれないというのは、現代の私たちが聞きなれないだけで、当時の人達にしてみれば、「皇室」なんてもっと聞きなれないはずですよ。
現代の価値観を歴史に刷り込ませて批評することほどナンセンスなことはありません。
ってか、「王家」云々で騒いでる方々の意見は現代の価値観でもないですね。
戦前の皇国史観なら抜け切れない時代錯誤の価値観だと思います。

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