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光市母子殺害事件の終結に思う、犯罪が起こった時点で、皆、敗者。

今週、山口県光市母子殺害事件の差し戻し上告審で被告側の上告が棄却され、犯行当時18歳1ヵ月だった元少年の死刑が確定、事件発生から13年という長きに渡って審議されてきた同事件の裁判は、一応の決着を見たようです。
私はこの判決の是非について語れるほどの材料を持ちあわせていないので、ここで軽々に私見を述べるのは控えますが、心情的には大方の皆さんと同じ思いです。
ただ、決着といっても亡くなった方の命が戻ってくるわけもなく、この種の事件はおそらくどんな判決が下ったとしても、「これにて一件落着」といったスッキリとする着地点などあり得ないものなのでしょうね。
それはまさしく、遺族の本村洋さんが記者会見で語っておられた、
「この判決に勝者なんていない。犯罪が起こった時点で、みんな敗者だ」
という言葉が、何より言い得ているように思います。

それにしても、理路整然とマスコミに応対する本村洋さんの会見を見ていると、13年の歳月とその間に交わされた議論の厚みを感じずにはいられません。
彼の魂のこもった弁舌に、私はこの13年間しばしば感動させられてきました。
思い出されるのは、たしか第一審で無期懲役の判決が下ったときだったと思いますが、「ニュースステーション」に出演されて発言された言葉。
「司法が彼を死刑にしないのなら、今すぐ彼を釈放してほしい。私がこの手で殺します。」
と、愛する者の命を奪われた遺族としての悲痛な胸のうちを晒したあと、
「死刑は廃止してはならないと思います。死刑の意味は、殺人の罪を犯した人間が、自らの罪と向き合い、犯行を悔い、心から反省をして、許されれば残りの人生を贖罪と社会貢献に捧げようと決心して、そこまで純粋で真面目な人間に生まれ変わったのに、その生まれ変わった人間の命を社会が残酷に奪い取ることです。その非業さと残酷さを思い知ることで等価だという真実の裏返しで、初めて奪われた人の命の重さと尊さを知る、人の命の尊厳を社会が知る、だから死刑が存在する意義があると思うのです。」
といった内容の持論を語られていました(ネット上で探して参照したものですので、一字一句正確ではありません)。
単に犯人へ向けた憎悪の言葉ではなく、論理的で、哲学的で、社会の中の命の尊厳命の価値にまで踏み込んだこの刑罰論を、たかだか24・5歳の若者が語る姿に、あの久米宏さんが言葉を失って聞き入っていたのを今でも覚えています。
もともと頭がよく弁の立つ方ではあったのでしょうが、もし、このような事件に遭遇していなければ、また、あらゆるテクニックを駆使して死刑判決を回避しようとする弁護団がいなければ、この難しい問題についてここまでの意見を持ち得ることもなかったでしょう。
彼でなければ、この事件がここまで世間の注目を浴びることもなかったかもしれません。
もちろん、ご本人はこのように称賛されることを望んではいなかったでしょうが・・・。

死刑確定後の先日の会見で本村さんは、「事件からずっと死刑を科すことを考え、悩んだ13年間だった。」と言っておられましたね。
また、「反省の情があれば死刑にならなかったと思う。」とも・・・。
かつては「万死に値する」とまで訴えていた彼の毅然とした主張からみれば、少々トーンダウンした最後の会見でした。
でも、それもまた自然な胸の内なんでしょうね。
これまで信念を持って戦ってきたものの、いざ望みが叶ったとき、今度は本当にこれでよかったのかと自問自答する。
これはいたって正直な心境だと思いますし、人間らしい感情だと思います。
たとえ極悪非道な殺人鬼の命であっても、いざその命を奪うとなると、決して心穏やかではいられない、つまりは、彼がずっと訴えてきたとおり、それだけ人の命とは重いものだということでしょう。
このたび死刑囚となった元少年にも、死ぬ前にそのことを噛み締めてほしいと思います。
君のような外道の命でも、その命を生かすか殺すかで13年もの長い年月を費やし議論され、悩み苦しんだ人たちがいるんだよ・・・と。

最後に、この13年間の締めくくりといってもいい先日の会見での本村さんの言葉を記します。
「判決は被告のものだけでなく、被害者遺族、何よりも社会に対して裁判所が言っていること。少年であっても身勝手な理由で人を殺害したら死刑を科すという強い価値規範を社会に示したことを社会全体で受け止めてもらいたい。私も極刑を求めてきたものとして厳粛に受け止める。」

あらためて、13年前に亡くなられたお二人のご冥福を心よりお祈りします。
そして、本村洋さんの今後の人生が穏やかであるよう願っています。


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by sakanoueno-kumo | 2012-02-22 16:17 | 時事問題 | Trackback | Comments(0)  

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