平清盛 第10話「義清散る」

 のちに歌人・西行となる佐藤義清平清盛と同じ元永元年(1118年)生まれ。祖先は平将門の乱で活躍した藤原秀郷(俵藤太)という武門の家で、代々朝廷に仕え、紀伊田仲荘の預所を務める裕福な家に義清は生まれた。幼い頃に死別した父の後を継いで18歳で兵衛尉(ひょうえのじょう、皇室の警護兵)の官職を得た義清は、清盛と同時期に鳥羽上皇(第74代天皇)の「北面の武士」に任命された。武芸は弓や乗馬が得意で、流鏑馬の達人だったという。また、公家社会の社交スポーツである蹴鞠の名手だったといい、その傍ら、和歌を能くし、有職故実に明るい教養人として知られた。さらに容姿端麗だったというから非の打ち所がない。金持ちのボンボンでルックスもよく、スポーツ万能で教養があって芸術的センスにも長けていたという、同じ男としては絶対合コンに同席したくない実に嫌味な男だったという。

 ところが、そんな義清が保延6年(1140年)、突如として兵衛尉の官職を捨て、頭を丸めて出家してしまった。23歳という若さであったことや、官職を得てから5年しか経っていなかったことなどから、人々はこの出来事を大変驚いたようで、時の内大臣・藤原頼長の日記にも驚きの様子が記されている。同い年で同僚の清盛も、義清の思い切った行動にはきっと驚愕したことだろう。

 義清が出家の道を選んだ理由については、失恋が原因だった、友の急死により人生の無常を悟った、公家社会における政争に嫌気がさした、和歌や故実の研究・創作に没頭しようとしたなど、様々な説が取り沙汰されてきたが、どれも決定的なものはない。そんな中、最初の失恋説が物語にするにはもっとも適していたようで、説話集などにこの説を題材とした話が複数収められており、後年には謡曲落語の題材にもなった。今も昔も、下世話な色恋話のワイドショーネタというのは、人々の興味をそそる格好の題材のようである。そういえば、清盛や西行とほぼ同じ時代を生きた文覚(遠藤盛遠)が出家したのも、邪恋の末に誤って不倫相手の人妻を殺してしまったのが原因だった。ともあれ、恋に悩んだ末に出家する武士がいたのは事実のようだ。

 義清の失恋説の出典は、『源平盛衰記』の中に記された一文からきたものである。
「さても西行発心のおこりを尋ぬれば、源は恋故とぞ承る。申すも畏れある上臈女房を思い懸けまいらせたりけるを、あこぎが浦ぞと云ふ仰せを蒙りて思い切り、官位は春の夜、見果てぬ夢と思いなし、楽しみ栄えは秋の月西へとなずらへて、有為の世の契りを逃れつつ、無為の道にぞ入りにける。」
 義清はある高貴な女性に恋をして一夜を共にしたが、義清が別れ際に今一度と会いたいと尋ねると、その女性は「阿漕の浦ぞ」といって去っていった。「阿漕の浦」とは伊勢の海のことで、そこでは神に誓約して年に一度しか網を引いて漁をすること許されておらず、この「阿漕の浦ぞ」という返事で恋に破れたことを悟った義清は、一夜の想いを胸に頭を丸めた・・・と。その高貴な女性、すなわち「申すも畏れある上臈女房」というのが、鳥羽院の中宮であり崇徳上皇(第75代天皇)と後白河法皇(第77代天皇)の生母である待賢門院璋子だというのである。もちろん、全て憶測の域をでない説ではあるものの、実によくできた話ではある。このとき、佐藤義清23歳。待賢門院璋子40歳。もし、この話が本当のことならば、璋子は大変な美貌の持ち主だったに違いない。熟女の魅力に骨抜きにされて、地位も名声も捨ててしまった若きエリート青年。現代でもありそうな話だ。

 あと、出家の際に義清が娘を蹴り飛ばすシーンがあったが、この話は有名な説話で、出典は『西行物語絵巻』によるものである。
「年ごろさりがたく、いとほしかりける女子、生年四歳になるが、縁に出でむかひて、父御前の来たれるがうれしといひて袖に取りつきたるを、いとほしさたぐひなく、目もくれて覚えけれども、これこそ煩悩の絆よと思ひとり、縁より下へ蹴落したりければ・・・」
 縁側で無邪気に父の袂にまとわりついてきた4歳になるわが娘をみて、心から愛しいと思いながらも、これこそ俗世への煩悩であると考えた義清は、娘を縁側から蹴り落としたという。にわかに信じがたい話で、これこそ、おそらく後世に作られた伝説だろう。義清の決意の強さを表したものだと言われているそうだが、現代に生きる私たちからすれば狂ったとしか思えず、決意の強さとしては伝わりづらい。視聴者からクレームがありそうな幼児虐待エピソードをあえて採用した製作者のこのドラマに賭ける決意の強さは伝わってくるが・・・。おそらく、この逸話を知らなかった視聴者は、義清の突然の奇行にドン引きしたのでは・・・?

 世を捨つる人はまことに捨つるかは 捨てぬ人をぞ捨つるとはいふ
 (出家した人は悟りや救いを求めており本当に世を捨てたとは言えない。出家しない人こそ自分を捨てているのだ)

 この歌は『詞歌和歌集』に詠み人知らずとして収録された歌だが、出家時の心境を詠った義清こと西行の歌だといわれている。理由は定かではないが、出家する前のほうが世捨て人の心境だったといいたいようだ。しかし考えようによっては、このように詠われた妻と娘は浮かばれない話だ。老年になってから出家するならともかく、妻子がありながら自分のことだけを考えて出家した義清は、少々身勝手すぎる気がしないでもない。ましてや、それが邪恋に破れたためだったとしたらひどい話である。佐藤義清こと西行法師。金持ちのボンボンでルックスもよく、スポーツ万能で教養があって芸術的センスにも長けていたものの、その性格は良く言えば繊細、悪く言えば心の弱い男だったのかもしれない。


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by sakanoueno-kumo | 2012-03-13 15:26 | 平清盛 | Trackback(4) | Comments(0)  

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