平清盛 総評

 2012年NHK大河ドラマ『平清盛』の全50話が終わりました。ブログで大河ドラマのレビューを始めて4年、私自身の率直な感想をいえば、近年(今世紀)の大河作品の中では三本の指に入れてもいいほど優れた出来だったと思っています。しかしながら世間の評価は私とはどうも違ったようで、大河ドラマ歴代最低の視聴率を記録したそうですね。そんなこともあってか、巷では本作品を酷評する記事が乱立していました。歴史ドラマといえどもドラマである以上、大衆娯楽ですから、視聴率をひとつの指標として評価することは間違っていないと思います。ですが、高視聴率=名作低視聴率=駄作というレッテルの貼り方は、いささか短絡的すぎるのではないでしょうか。そこで今日は、なぜ『平清盛』が視聴者の支持を得られなかったかを考えながら、物語を総括してみたいと思います。

 ドラマ開始早々物議を醸したのが、「画面が汚い。鮮やかさのない画面ではチャンネルを回す気にならない」といった兵庫県知事のクレームでしたね。これに対してNHK側の回答は、「時代考証を忠実に再現した映像」との説明だったと記憶しています。県知事という立場の人が公の場でこのような発言をしていいものかとは思いますが、それはここでは横において、知事の苦言が的を射たものだったかどうかを考えます。

 まず、このようなフィルム調の暗い映像は今回に始まったことではなく、『龍馬伝』『江~姫たちの戦国』そしてスペシャル大河ドラマ『坂の上の雲』でも使われていた手法です。夜は暗く、昼間でも決して俳優の正面から光を当てず、光源は常に斜め上か真後ろ。だから、ときには逆光となって、役者の顔がまったく見えなくなったりもします。時代劇といえば、俳優さんはドウランをテカテカに塗って、照明は常に俳優さんの顔に当たるというのが当たり前でしたが、近年の大河ではその常識を覆しました。その深みのある画面は、そこにスタッフの存在を匂わせないリアリティあふれる映像世界を作り出していると私は思います。この映像に対する好き嫌いはあると思いますが、兵庫県知事のクレームは、近年の大河作品を全く見ていなかったゆえに出た言葉で、時代劇に対する知事の固定観念からきた意見でしょう。それ自体が視聴率に影響したとは思えません。

 ただ、コーンスターチというとうもろこしの粉を使ったホコリ演出は、少々やりすぎだったんじゃないでしょうか。「荒廃したホコリ臭い時代を表現するため」というのがNHKの説明でしたが、その点についてある方のブログでの指摘を読んで、なるほど・・・と頷きました。空気が乾燥した大陸の西部劇ならともかく、日本の湿潤な気候では、あんなにホコリは立たないのでは?・・・と。たしかにそうですよね。リアリティを追求するなら、時代考証だけではなく、日本の風土も考証すべきだったのではないでしょうか。ホコリ演出は戦闘シーンだけで良かったんじゃないかと・・・。

 次に、俳優さんたちに目を向けると、主演の松山ケンイチさんはもちろん、父・平忠盛役の中井貴一さん、藤原頼長役の山本耕史さん、信西役の阿部サダヲさんなど演技派の実力派揃いで、完璧なキャスティングだったと思っています。とりわけ松山ケンイチさんにいたっては、清盛の12歳から64歳という半世紀以上を演じきっておられ、その演技力は見事というほかありません。特に平家政権を樹立した後の暴君・清盛像の演技は素晴らしく、本当に60歳を超えた老人に見えました(決してメイクの力だけではなかったと思います)。気の毒なことに、主役の役者さんは低視聴率の責任を負わされるのが宿命ですが、この作品に限って言えば、松山さんと低視聴率はまったく関係ないと思うのですが、いかがでしょうか。

 ただ、清盛の描き方については、多少の不満がなきにしもあらずです。物語の設定は吉川英治著の『新・平家物語』と同じく白河院ご落胤説をベースにしており、その境遇に対する反発から、攻撃的な性格の異端児として成長するストーリーでした。その設定そのものは悪くなかったと思うのですが、その反発の矛先が父・忠盛や平家内部という幼稚な演出で、あれではただの反抗期を迎えた駄々っ子でしかありません。のちに忠盛の死によって覚醒する清盛ですが、忠盛が死んだとき清盛はすでに35歳。いつまで反抗期やってたんだ?・・・と。

 これは本作品に限ったことではなく、『龍馬伝』『天地人』など近年の作品に共通していえることですが、若き日の主人公の姿を、無理に現代のありがちな少年像にラップさせて描く傾向にあるようです。そのほうが視聴者の共感を得られるという意図かもしれませんが、それでは偉人としての本来の魅力を削ぐことになるんじゃないでしょうか。偉人は少年時代から良きにせよ悪しきにせよ非凡な人物であったほうが魅力的だと思います。第1話で描かれた清盛の生母の壮絶な最後や、忠盛が清盛に語った「心の軸」の話。そして「死にたくなければ強くなれ!」のラストシーンを観て、「今年の大河は違うぞ!」と思ったのは私だけではないのではないでしょうか。ところが第2話以降、繰り返し描かれていたのは、いつまでもウジウジとスネている反抗期の少年の物語で、第1話を超える回はしばらくありませんでした。このあたりで見限って離れていった視聴者がたくさんいたように思います。保元・平治の乱のあたりから物語はぐっと面白くなるのですが、そこまで視聴者を引きつけておけなかったことが、後半の低視聴率に大きく影響したように思います。

 あと、天皇家のドロドロした人間模様も今までになく踏み込んで描いていたと思いますし、本筋とは直接関係のない当時の貴族社会のエピソードなども、細やかに拾って描いていました。実に丁寧な演出だったと思いますし、作り手の作品にかける情熱がうかがえました。しかし、矛盾したことをいうようですが、いささか丁寧すぎた。きめ細やかにエピソードを描きすぎたことで、かえって視聴者に要点が伝わらない結果になったように思えます。これはおそらく、近年の作品で史実を歪曲した虚構ストーリーや割愛されたエピソードなどを批判する声が跡を絶たなかったことから、できるだけ通説に添ったかたちで作品づくりに臨んだ結果だと思われます。史実かどうかはともかく、『平家物語』『愚管抄』『玉葉』などに記された有名なエピソードをたくさん採用していましたよね。ところが、平家や源氏をはじめ天皇家や摂関家など、あらゆる角度からいろんなエピソードをくまなく描ききったことから、結局何が描きたかったのか視聴者に伝わりにくかった。やはりこういったドラマでは、ある程度大胆な省略や簡素化が必要なんでしょうね。毎年、史実云々と照らしあわせて浅薄な知識をひけらかすだけの批判者たちは、今回の結果をみて一度考えなおしてみてもいいんじゃないでしょうか。

 あと、前半の演出(特に天皇家の人間模様)は少々陰気臭かったですね。たしかに白河院鳥羽院待賢門院璋子の関係など、ドロドロしたエピソードが多かったのですが、物語全体を通して陰気なイメージを拭いきれなかった。やはり大河ドラマでは、歴史上の偉人の颯爽とした姿を観たいもので、視聴者はそこにカタルシスを感じるものだと思います。残念ながら今回のドラマでは、颯爽と武家の頂点への階段を駆けのぼっていくような清盛像はありませんでした。そのあたりも、視聴者が離れていった理由のひとつではないでしょうか。

 最後に、ドラマ開始前から話題になっていた「王家」という呼称の問題について少しだけふれます。天皇家を「王家」と呼ぶことは皇室に対する侮辱であるという意見で、一部の過激な右傾の方々の抗議がNHKに殺到したようですね。この問題については、以前の拙稿(大河ドラマ『平清盛』の王家問題について。)で述べましたので、ここで繰り返し述べることは控えますが、彼らの言い分では、ドラマの視聴率が悪かったことまでイデオロギー的な理由にされているようです。正直、実に不愉快でくだらないですね。「王家」という言葉に不快感を抱いていたのは、戦前の「皇国史観」から脱却できていない一部の化石のような方々だけです。彼らにしてみれば、ドラマの内容などどうでもいいことで、自分たちのイデオロギー論争をドラマに持ち込みたいだけです。純粋にドラマを楽しみたいと思っている者にとっては、迷惑千万な話ですね。

 さて、連連と私見を述べてきましたが、冒頭でもお伝えしたとおり、私にとって『平清盛』は名作とまではいかなくとも良作でした。少なくともここ2~3年の作品の中では最も良かったと思っています。それだけに、歴代最低の視聴率という結果は残念でなりません。大河ドラマといえば、戦国時代幕末維新の物語が圧倒的に多く、清盛のような中世を描いた作品は数えるほどしかありません。それだけ戦国と幕末の人気が高いということでしょうが、私が危惧するのは、今回の結果でまた中世を描くことを躊躇するようになることです。たしかに視聴率を狙うのなら、戦国モノや幕末モノが鉄板でしょう。だからといってそればかりやってたんでは、今後の大河ドラマの発展はありません。その観点からも、冒頭で述べたとおり、視聴率をひとつの指標として評価することは間違っていないとは思いますが、視聴率が全てではないと思うのです。特にNHKの場合、民放と違って視聴者やスポンサーに媚びることなく作品づくりが出来ることに良さがあると思います。今回、歴史上あまり人気のない平清盛という人物と、同じく歴史上あまり人気のない中世を描くことにNHKはチャレンジしました。その意気込みは高く評価したいと思います。結果は残念ながら万人にウケるものとはなりませんでしたが、私のように支持する視聴者も少なからずいます。制作者の方々はこの結果に怯むことなく、この作品をベースとして、次はどうやったら中世という時代を多くの人に楽しんでもらえるかを考え、また挑んでほしいものです。

 とにもかくにも1年間楽しませていただき本当にありがとうございました。このあたりで私の拙い『平清盛』のレビューを終えたいと思います。毎週のぞきにきていただいた方々、時折訪ねてきてくれた方々、コメントをくださった方々、本稿で初めてお会いした方々、どなたさまも本当にありがとうございました。

●1年間の主要参考図書
『平清盛のすべてがわかる本』 中丸満
『平清盛をめぐる101の謎』 川口素生
『日本の歴史6~武士の登場』 竹内理三
『日本の歴史7~鎌倉幕府』 石井進
『新・平家物語』 吉川英治



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by sakanoueno-kumo | 2012-12-31 02:14 | 平清盛 | Trackback(1) | Comments(8)  

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Tracked from 平太郎独白録 親愛なるア.. at 2013-01-07 13:50
タイトル : 歴史に残る今年の大河ドラマを語って今年を終えるの巻。
先ほど、ちと、所用があり、福岡城の近くまで行って来たのですが、福岡市内では、この冬初めて(?)の雪が舞いました。まあ、東日本の皆さんに比べれば、ちゃんちゃらおかしいというような雪なんでしょうけどね。 ところで、私の今年一年はと言えば、とにかく、「忙しい」の一言につきました。 今も、年末年始は関係無いですよ。 むしろ、この間にどれだけ、こなせるかなと危惧しているくらいでして・・・。 「仕事中 普通に聞いてる 除夜の鐘」 梁庵平太 さすがに、そんなことにはならないだろうとは思っている...... more
Commented by フシ鳥 at 2013-01-01 21:27 x
一年間お疲れ様でした。
私も、視聴率に関係なく今年の大河ドラマはとても良かったと思います。
馴染みのない時代を毎回レビューして下さったおかげでより楽しむことができました。
ありがとうございました。
Commented by sakanoueno-kumo at 2013-01-02 03:22
< フシ鳥さん

こちらこそありがとうございました。
時折こうしてコメントいただけると、励みになりました。
今年の大河のレビューを続けるかどうかは現在迷っていますが、よければ今後もまた覗きに来てください。
Commented by 一年間 at 2013-01-03 02:42 x
はじめまして。
書き込みははじめてですが、実は一年間毎週、清盛視聴後はこのブログを読ませていただき、内容の復習をしていました。

私のような歴史に疎いものが一年間完走できたのは、あなたのような方がいたからです。

ありがとうございました。

Commented by sakanoueno-kumo at 2013-01-04 00:47
< 一年間さん

コメントありがとうございます。
また、過分なお言葉をいただき恐懼にたえません。
ブログを起稿するについては当然、何冊かの本を参考にしていますが、ただ、私もただの歴史好きな素人ですので、ひょっとしたら間違ったことを言ってたこともあったかもしれません。
全話が終わってから言うのもなんですが、もしガセネタがあってもご容赦ください(笑)。

こちらこそ1年間ありがとうございました。
Commented by heitaroh at 2013-01-07 15:55
概ね、おっしゃるとおりだと思います。
同感です。

ただ、
>毎年、史実云々と照らしあわせて浅薄な知識をひけらかすだけの批判者たち

の一人として、若干、弁明させていただくと、私の場合は、元々、娯楽番組として見ているわけで、それほど無粋なことを言うつもりはないのですが、これを史実と盲信してしまうことの危険を考えれば、「面白ければ史実曲げても良い」とも思いませんし、ドラマとして作っていることを思えば、「ひとりよがりであくまで史実をぶっこむ」というのも如何なものかと思います。
つまり、物語の進行上、やむを得ない部分はともかく、話を作り変えるのではなく、問題があるような箇所は採り上げなければ良い・・・と。
そこら辺は史実を曲げない程度に、上手くやれないこともないように思うんですけどね。
Commented by sakanoueno-kumo at 2013-01-07 22:52
< heitarohさん

「面白ければ史実曲げても良い」とは私も思いませんが、作品独自の解釈はあっていいと思います。
もちろん常識の範囲内で、ということになりますが。
ただ、独自の解釈で演出するには作り手のセンスが問われますけどね。
センスのない人が独自の解釈をすると、お江のようなトンチンカンな物語になっちゃうわけで・・・。
そこが難しいところでしょうけどね。

ただ、昔からある定番エピソードの中にもフィクションはあるじゃないですか。
たとえば石田三成が家康の邸に助けを求めて逃げこむ逸話など、史実と思っている人多いですよね。
私も以前は史実だと思っていて、のちに虚構だということを知った話はたくさんあります(今も史実だと思い込んでいる話もあるでしょうね)。
そういうものなんじゃないでしょうか。
Commented by とうもろこし at 2013-01-07 23:36 x
お久しぶりです。
視聴後のお勉強させて頂いておりました。
平清盛、面白かったですよね。
ただ、物語として、どどーんと幹(描きたいこと)があって、色々な葉や花実(エピソード)があって見応えがあるのだけど、それらを繋ぐ枝振り(構成)が時にバランス悪いなぁ、と感じていました。
シュールでエキセントリック、かつナイーブで…でも力強くてビビット。
根っこ(作り手の情熱)がしっかり感じられて毎週楽しみでした。
仰るように、少年清盛の描き方一つとっても、「こういう作品作るぞー!」という部分と世相に頑張って擦り合わせた部分が齟齬を起こした感もありましたけど

今年もお邪魔させて頂きます
月1でも待ってまーす!
Commented by sakanoueno-kumo at 2013-01-08 23:47
< とうもろこしさん

お勉強だなんて恐縮です。
私も、毎週お勉強しながら起稿していました。
こちらこそ、たいへん的を射た分析とウィットに富んだ表現のコメントに感心しております。

平清盛、面白かったですよね。
ただ、結果的に大衆に支持されなかった一番の理由は、一言で言えば陰気臭かったということだと思います。
「八重の桜」の第1話であった、佐久間象山の塾で大砲を学ぶときの山本覚馬の希望に満ちた目の輝き・・・あの目が「平清盛」に出てくる登場人物になかった。
そういうことなんじゃないですかね。

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