八重の桜 第4話「妖霊星」 ~井伊直弼と徳川斉昭~

 安政5年(1858年)4月、近江国彦根藩の藩主・井伊直弼が幕府大老に就任します。大老職とは幕閣の最高職で、常置の職ではありません。通常、将軍自らが政務を執り行うことは少なく、その一切を取り仕切っていたのは老中でした。老中は常に4~5人いて、その中の筆頭を老中首座といい、行政機関のトップとして政務を執り行います。いまでいえば内閣総理大臣のような役職といえばいいでしょうか。将軍はというと、「よきにはからえ!」といっていればよかったわけです。この時期の将軍は第13代将軍・徳川家定で、家定は生まれつき病弱だったとも暗愚だったとも言われていますが、老中たちさえ有能な人物を揃えておけば、将軍はバカ殿様でもよかったわけですね。

 で、その老中のさらに上の役職が大老で、国難非常事態に際して置かれる臨時職でした。平時のそれは多分に名誉職的な意味合いが強かったそうですが、実質、老中首座より強い権限を与えられた役職だったわけですから、その権限をフルに発揮すれば独裁政治も可能だったわけです。井伊直弼が就いた大老とは、そういう椅子でした。

 彦根藩主である直弼が幕府内で頭角を現したのは、嘉永7年(1854年)の2度目の黒船来航のときでした。当時、有力藩主が集まって幕政に関与する溜間詰(たまりのまづめ)大名という集いがあり、直弼はその筆頭という立場でした。ペリー艦隊来航に際して直弼は、溜間詰大名筆頭として開国を主張します。しかし、その直弼の主張に真っ向から反対する人物がいました。前水戸藩藩主・徳川斉昭です。水戸藩といえば、尊皇攘夷論のさきがけ的存在の藩。ときの老中首座・阿部正弘によって幕政への参与を許されていた斉昭は、鎖国の維持と攘夷を主張し、直弼と激しく対立します。結局、幕府は米国総領事ハリスから迫られた日米修好通商条約の調印を、朝廷の勅許を受けるということで事態の打開を図ろうとします。

 折から幕府内では、将軍継嗣問題よる対立も深まります。幕政改革を求める雄藩藩主らは、斉昭の子で英明と噂されていた一橋慶喜(のちの第15代将軍・徳川慶喜)を支持し、一橋派と呼ばれていました。これに対して、系統重視の幕府主流派は紀伊藩主・徳川慶福(のちの第14代将軍・徳川家茂)を推し、南紀派と呼ばれます。一橋派は、斉昭を中心に福井藩主・松平慶永(春嶽)や薩摩藩主・島津斉彬らで形成され、一方の南紀派は、直弼をはじめ、会津藩主・松平容保、高松藩主・松平頼胤ら溜間詰大名が中心でした。直弼と斉昭の対立関係は、条約調印問題と将軍継嗣問題という2つの政治的対立によりさらに深まっていきます。そんななか、直弼は大老職に電撃就任します。

 大老となった直弼は、その権限を遺憾なく発揮して、かなり強引な政務を執り行います。孝明天皇(第121代天皇)の勅許が得られずに止まっていた日米修好通商条約は、「国家存亡のときにあってやむなし」という直弼の判断により、勅許のないまま調印が行われました。そして、その直後には、自らが推していた徳川慶福を次期将軍に決定します。当然のごとく、この強引な手法には大きな反発がありました。しかし、直弼はその反発に対して、反対勢力を徹底的に処罰するというさらに強引な手法で答えます。その強引さたるや、抵抗勢力に刺客を送った小泉純一郎元首相の比ではなく、幕臣、大名はもちろん、市井の学者や志士に至るまで、あらゆる抵抗勢力の一切排除を断行しました。そのなかに、政敵である斉昭がいたのは言うまでもありません。斉昭は国許永蟄居の処分となり、政治生命を断たれました。世に言う、「安政の大獄」です。

 ドラマに出てきた彗星は、この年の10月に観測された「ドナティ彗星」という名の彗星だとか。肉眼でも見ることができたほど大きく輝く彗星だったようで、世界各国で観測された記録が残っているそうです。タイトルの『妖霊星』とは、当時、凶事の前兆として不吉とされていた「ほうき星」のこと。奇しくもこの彗星がもっとも地球に近づいた頃から、日本は殺伐とした時代に入っていくんですね。それは日本にとってのことか、あるいは直弼にとってのことか、でも確かに、「ドナティ彗星」は凶事の前兆、「妖霊星」でした。



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by sakanoueno-kumo | 2013-01-31 02:33 | 八重の桜 | Trackback(2) | Comments(0)  

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