おんな城主 直虎 第16話「綿毛の案」 ~綿花栽培と乱妨取り~

 前話で今川家の寿桂尼から井伊虎松の後見を許された井伊直虎でしたが、今話はその「民を潤す」といったスローガンのとおり、領国経営に奮闘するお話。そもそも、百姓が求めていた徳政令の発布を先延ばしにしたわけですから、それに変わる対策を講じなければ、民が逃散してしまいます。井伊家にとっても、民が潤わなければ年貢が入らないわけですから、死活問題です。そこで目をつけたのが、綿花栽培だったわけですね。ただ、前話の稿でも述べたとおり、直虎が徳政令の発布を先送りした2年間のことは全く記録が残っておらず、もちろん今話のエピソードもドラマのオリジナルです。


 もっとも、浜松が綿花栽培の地だったというのは事実で、直虎の時代に始まっていたかどうかはわかりませんが、江戸時代中期には全国でも有数の綿花産地となっていました。遠州地方は、天竜川の豊かな水と温暖な気候によって、綿花の栽培に適していたようです。やがて、浜松城主・井上正甫が農家の副業として綿織物を推奨したことから、繊維産業が盛んになります。これが、現在に続く「遠州木綿」の原点です。


 時代は下って明治に入ると、紡績工場が作られるまでに発展を遂げ、浜松の綿産業は日本を代表する産業のひとつになります。そして、明治29年(1898年)、トヨタグループの創始者である豊田佐吉が、木製の動力織機を発明したことを機に、一大産業に発展していきます。そしてそして、その技術は、やがてトヨタ自動車の技術へと繋がっていき、さらには、ホンダ、スズキ、ヤマハなどのバイクや楽器にも飛び火していくんですね。


つまり、今話で直虎たちが蒔いた1粒の綿花の種が、世界のトヨタに繋がっていくわけです。少し大袈裟なようですが、産業を起こすということはそういうことなんじゃないかと。その土地の風土にあった歴史を創るってことなんですね。自動車や楽器など、一見、風土などとは無縁の産業に思いがちですが、歴史を掘り下げてみると、農業国ニッポンならではの風土的根拠があるわけです。面白いですね。


 綿花栽培を起こすにあったての人手不足の問題を解決するために、「百姓を貸してほしい」と頼みまわる直虎でしたが、すべて断られてしまいます。これは当然のことですよね。百姓は大事な労働力であり、大切な納税者であり、さらには、兵農分離が確立されていないこの時代、百姓も貴重な兵力でした。この時代の兵士のほとんどは、普段は農業に従事し、召集がかかると武装して参戦する半農半士の者たちだったんですね。だから、領主たちは戦を仕掛けるにも、農繁期を避けて農閑期を選ばなけれなりませんでした。つまり、経済面からも軍事面からも民百姓の数は国力であり、容易に貸し出せるようなものではありません。もっとも、金銭で兵を雇う傭兵制度は当時もありました。しかし、それも農閑期に限ったようです。


 ちなみに、兵農分離を積極的に取り入れて常備軍を作り上げたのが織田信長、豊臣秀吉で、だから天下を取ったともいえます。(もちろん、それだけが理由ではありませんが)


 あと、人身売買の話も出てきましたね。「人の売り買いが出やすいのは戦場でしてな」という瀬戸方久の言葉からするに、ここでいう「人を買う」というのは、おそらく「乱妨取り」のことだと思われます。「乱妨取り」とは、戦場で逃げ惑う民を拉致監禁し、人身売買することで、子どもは奴隷として売られ、女性はその場で身ぐるみを剥がれてレイプされたり、欧州やタイ、カンボジアに性奴隷として売られたりしました。人身売買の相場はドラマで言っていたとおり一人につき二貫文(現代の価値で約30万円)でしたが、戦の着後は乱妨取りが多く行われるため、25文(約4千円)ほどに急落したそうです。つまり、方久が言う「手頃な戦場」というのは、「奴隷が4千円ほどで買えるよ!」ってことです。この提案に目を輝かせる直虎。おいおい!これ、実はめちゃくちゃ残酷な話なんですけど・・・。


 ちなみに、直虎の父・井伊直盛が死んだ桶狭間の戦いで、今川義元の大軍が少数の織田信長軍に敗れた理由を、「民家への略奪行為で油断する今川軍を急襲したから」とする説があります。つまり、敗因は乱妨取りだったと。だとすると、直虎のお父ちゃんも、民への乱暴狼藉をやってたのかもしれません。ドラマの直盛像を壊しちゃうようですが。


 ちなみにちなみに、意外にも織田信長は、自軍の乱妨取りを厳しく禁止していたといいます。逆に、義を重んじていた上杉謙信は、自軍の乱妨取りを黙認していたとか。わからないものですね。



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by sakanoueno-kumo | 2017-04-24 21:18 | おんな城主 直虎 | Trackback | Comments(0)  

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