武田信玄の死後、徳川家康は武田に奪われた領土をいったんは奪還しますが、これに対して、信玄の後継者となった武田勝頼は攻勢に出て、天正2年(1574年)正月には東美濃の明智城が攻め落とされ、4月には犬居城の戦いで徳川軍が大敗を喫し、6月には遠江の高天神城を奪還されるなど、武田の猛攻によって、たちまち徳川は劣勢となりました。武田勝頼といえば、名門武田氏を滅亡に追いやった愚将として語られることが多いですが、ドラマで描かれていたように、決して無能な人物ではなかったんですね。信玄が死んだことによって家康は窮地を脱したという後世のイメージは、武田氏滅亡という結果から逆算してついたものでしょう。実際には、家康のピンチはまだまだ続いていました。
そんななか起きたのが、今回のサブタイトルの「岡崎クーデター」でした。その首謀者と伝わるのが、今回のドラマで描かれた大岡弥四郎ですが、『三河物語』や『徳川実紀』では、彼の名を大賀弥四郎としています。どちらが正しいのかわかりませんが、本稿では、ドラマに合わせて大岡弥四郎説を採ります。
『三河物語』によると、弥四郎らは武田勝頼に内通してその侵攻を手助けしようとしていたといいます。その計画とは、家康が岡崎城を来訪したという虚偽の情報を流して開門させ、侵攻してきた武田軍を城内に導くというものでした。そして城を占領し、城主の松平信康を自害に追い込み、城内の家臣らの妻子を人質に取って彼らを武田に服属させ、そのうえで、家康やその家臣たちを討ち取るというものでした。しかし、クーデターメンバー内の山田八蔵(重英)が、途中で思い直して事の次第を信康にリークしました。報せを受けた信康は最初は信じなかったようですが、八蔵の提案で家来に密談を間諜させたため事は露見し、クーデターは事前に食い止められることとなったといいます。
他方、『徳川実紀』はまったく違うシナリオを伝えます。それによると、弥四郎は算術に長じていたので家康に認められて勘定方に用いられ、のちに三河国奥郡の代官に抜擢され、やがて岡崎にいる信康からも重用されるようになったといいます。しかし、家康、信康のふたりから信任を得たことで弥四郎は増長し、岡崎城家老たちすら異見できないほどの権威を着ていたといい、家康の家臣の近藤壱岐という譜代の武士が加増となった際、弥四郎は自分が執り成しをしたためであると放言したため、怒った近藤は加増を辞去することを申し出ました。このことがきかっけで家康が弥四郎の日ごろの悪行を耳にすることとなり、弥四郎の罪を問うて家財を没収したところ、そのなかから、岡崎城を乗っ取って武田勝頼を手引きするという計画が書かれた武田方への書簡が発見され、謀反が露見したといいます。
どちらの説が正しいかはわかりませんが、ドラマは『三河物語』をベースに描かれていましたね。まあ、そっちの方がドラマにもなるし、このあとの展開にもつなげやすいからでしょう。実際、この時期の徳川家臣団は、織田信長に付くべしとする者と、織田を見限って武田に付くべしと考える者たちとの対立があったといわれます。劇中、投獄された弥四郎が信康に吐いていた悪態は、この当時の多くの徳川家臣団の心の叫びだったかもしれませんね。この大岡弥四郎のクーデターが、のちの信康自刃事件につながったとも言われます。
ドラマで、五徳姫がクーデター未遂を起こした弥四郎らに対して、五徳姫が「この者たちをしかと処罰なさいませ。このうえなく惨いやり方で」と言っていましたが、実際に五徳姫がそのようなことを言ったかどうかはわかりませんが、弥四郎はその言葉どおり、このうえなく惨いやりかたで処刑されます。すなわち、岡崎および浜松城下において引き回しの上、岡崎で土に埋められ、首を通行人にのこぎりで引かせるという鋸引きの刑に処せられました。また、弥四郎の妻子は磔刑に処せられたといいます。
ドラマでは、この事件の糸を引いていのは武田方の間諜・千代で、それを悟った瀬名(築山殿)が、千代と接触して何らかのアクションを起こそうとしていましたが、おそらくこれが、信康自刃事件につながっていくんでしょうね。実際、一説として、武田が遣わした歩き巫女が築山殿に取り入り、信康を国主にするという武田方の提案に乗り、築山殿が謀反に参画していたという話もあります。それが露見するところとなり、信康自刃事件となった、と。ドラマでは逆に瀬名から千代に近づいていましたから、この逸話をベースに、何かオリジナルの展開を考えているのでしょうね。いずれにせよ、周知のとおり結末は悲劇です。どんな話になるか楽しみですが、その前に、次回は長篠の戦いですね。
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# by sakanoueno-kumo | 2023-05-29 20:02 | どうする家康 | Trackback | Comments(0)