龍馬伝 第20話「収二郎、無念」

 妹・加尾とともに坂本龍馬と親交が深かったとされる平井収二郎。坂本家と平井家は約1kmほどの距離で、幼馴染だったという設定には特別無理はない。ドラマでの収二郎は下士の設定だが、実際には最下級ではあるが上士で、家格としては白札の武市半平太より上だった。幼少の頃より文武に励み、英邁の質あり、弁舌鋭く、戦国策士の風があったらしい。下士中心に結成された土佐勤王党に上士の身分ながら参加。ドラマのとおり幹部として活躍するに至るが、署名血判は192名中157番目と何故か末席に位置する。同じく上士として同党に参加し、収二郎とともに切腹を命じられた間崎哲馬が4番目に署名していることを思えば、この署名順位は不思議だ。結党当初は半平太とあまり親交がなかったのだろうか。

 収二郎が龍馬のことを書いた手紙が残っている。京にいた妹・加尾に宛てた手紙で、龍馬が脱藩したことを知らせ、きっとお前のところに行くだろうけど、どのような相談をされても決して承知してはならない・・・といった内容で、「元より龍馬は人物なれども書物を読まぬゆえ、時として間違いし事も御座候得ば、よくよく御心得あるべく。」と言っている。龍馬は好青年ではあるけれど無学なため正しい判断力に欠ける・・・といった酷評で、この時期土佐勤王党の幹部として頭角を現していた収二郎にとって、龍馬の行動、考え方は理解できないものだったようだ。もっともこの龍馬評は、この時期の龍馬を知るすべての者たちの共通した見方であっただろう。

 半平太の右腕だったはずの収二郎だが、元々家格では半平太よりも上だったことが彼の背中を押したのか、行き過ぎた行動に出てしまう。ドラマのような山内容堂の半平太と収二郎の切り崩し工作はおそらくなかったと思われるが、確かに京での収二郎は半平太を超えた動きをしてしまった。勤皇党の中でも半平太と比較的距離があったとされる間崎哲馬、弘瀬健太とともに土佐藩の藩政改革を目論み、青蓮院宮(中川宮朝彦親王)の令旨を得て、現藩主・山内豊範(とよのり)の祖父で大隠居している土佐藩第12代藩主・山内豊資(とよすけ)を擁立しようとする(山内容堂は第13代藩主)。この豊資と容堂はソリが合わなかったとも言われており、そんな感情が加味されたかどうかはわからないが、この収二郎たちの行き過ぎた行いは容堂の逆鱗に触れ、役目を解かれ土佐に帰国、投獄の末、切腹を命ぜられる。

 収二郎の切腹を知った龍馬は、姉・乙女に宛てた手紙の中で、「平井の収二郎ハ誠にむごいむごい」と言い、「いもふとおかおがなげきいか斗(ばかり)か」と、兄を亡くした加尾を案じる言葉も添えられており、平井家と坂本家の親交の深さを察することが出来る。

 収二郎が獄中、爪書きで詠んだとされる有名な漢詩がある。
 嗚呼悲哉 兮 綱常不張
 洋夷陸梁 兮 辺城無防
 狼臣強倔 兮 憂在蕭牆
 憂勢忠國 兮 忠臣先傷
 月諸日居 兮 奈我神皇

 収二郎の死後、妹・加尾が墓碑にこの漢詩を刻むも藩吏によって削り取られ、明治維新後、再び加尾の手によって復元された。

 もうひとつ、切腹のおりに詠んだとされる辞世の句。
 「もゝちたひ いきかへりつゝ うらむと思ふ 心の絶えにけるかな」
 どちらも、志半ばでこの世を去った収二郎の無念さが伝わり、胸が苦しくなる。

 勝塾の運営資金千両を借りに越前福井藩主・松平春嶽のもとまで足を運んだ龍馬。そこで収二郎たちの投獄に納得がいかないと語った龍馬に、春嶽の政治顧問として招かれていた横井小楠が言った台詞。
 「今まで値打ちのあったもんが、古びて用無しになったっちだけのことたい。世の流れを作っとるとは人間ばってん、世の中の流れから見ればひとりの人間など芥子粒ほどのもんでしかなか。平井収二郎も・・・武市半平太もな・・・。」
 たしかに人ひとりの存在など芥子粒のように儚いものだが、その芥子粒ひとりひとりの存在が歴史を作り、現代の私たちに繋がっている。人は皆、歴史の中の役割を担っており、その命が消えた後も決して値打ちの下がるものではない。平井収二郎も・・・武市半平太も・・・。


■5月17日追記
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 上記本文にて平井収二郎を「上士」と書いたが、その後調べてみると「下士」という説もあるようだ。上士という説は、収二郎の父・直澄が上士の中でも最下層の新留守居組であったとされる説によるものだが、収二郎の死後、明治17年(1884年)に土方久元・田中光顕・河野敏鎌など土佐勤王党の生き残りたちによって編纂され、坂崎紫瀾が執筆した「維新土佐勤王史」によれば、収二郎の切腹に関して、「然るに其の処刑は、従来下士に例なき切腹と知りたれば、隈山(平井収二郎)は之を最後の名誉と喜び、心機たちまち一転せるものの如く・・・」とあり、はっきりと「下士」と記されている。土佐藩では通常、切腹を許されるのは上士だけで、下士は斬首される。拷問による取調べも下士だけで上士は拷問を受けないとされている。ドラマを見てそのあたりの矛盾を指摘する声もあるが、この説をとれば、拷問の後切腹という今話の筋書きも成り立つ。とは言え、収二郎の身分は上士というのがおそらく通説であると思われ、そのどちらが正しいかは私もわからないが、ここに追記というかたちで紹介してみた。


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by sakanoueno-kumo | 2010-05-16 23:49 | 龍馬伝 | Trackback(9) | Comments(2)  

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そう言った横井小楠もまたそうなりますよね。
まるで、自分のことを言ったとしか思えないようなセリフですね(笑)。
韓非子然り、李斯然りでしょうか。
Commented by sakanoueno-kumo at 2010-05-18 20:53
< heitarohさん。
まさしく・・・(笑)。
ただ、小楠は士籍剥奪の上蟄居となりますが、処刑まではされませんでした。
その意味では、小楠の台詞を借りれば、完全に古びて用なしになったワケではなかったのでしょうか・・・。
まあ、結局は暗殺されますけどね。

龍馬が天下の人物9人の中にあげた横井小楠ですが、本ドラマではイメージの悪い出会いでした。

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