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龍馬伝 第24話「愛の蛍」

 愛妻家だったという武市半平太。妻と離れ京にいた頃、勤王党の輩が色町に繰り出しても彼は決して行かなかったという。「天皇好き」とあだ名された半平太だったが、近しい者たちからは、「奥方好き」とも親しみをこめて揶揄された。

 ドラマ中、坂本龍馬の姉・乙女が語った半平太と妻・の夫婦愛のエピソード。この話は実話で、ここに出てきた友人というのは、龍馬より一足先に脱藩して、先の天誅組の変で落命した吉村寅太郎である。半平太と冨の間には子がなく、これが半平太のもとに集う一同の悩みの種だった。弟子たちは半平太に妾を持つよう勧めるが、彼はいっこうにその気を示さない。事を深刻に考えた寅太郎は、ある作戦を考えた。冨に理由をつけて一時実家に帰ってもらい、その間に美しい賄い女を雇い、半平太に手をつけさせるという作戦。冨も納得して暇を願い里に帰った。現代の感覚でいえばヒドイ話だが、この時代には「七去」という妻を離縁する基準とされた戒めがあり、「父母に順ならず」「子なき」「淫」「炉」「悪疾」「多言」「竊盗」という七つがその条件だった。中でも「嫁して三年子なきは去る」というのは一番の戒めとされ、寅太郎のとった行動は、師を思う行いとして当然のことだったのである。

 しかし半平太はその女中にまったく関心を示さない。業を煮やした寅太郎は、次々とタイプの違う美女を武市邸内に送りこむが、半平太は手をつけることなく、逆に不審に思った半平太が寅太郎を問いただし計略を白状させ、大いに叱責したという。その後呼び戻された冨は、あまりに喜ぶ半平太の姿に驚き、それまで以上に夫婦の絆が深まったという。至誠の人と言われた武市半平太の人物像がよくわかるエピソードだ。

 半平太が投獄されると、冨は献身的なまでに牢獄へと差入を行ない、影から武市の牢獄生活を支えた。獄中で主人は冬でも板の間に寝ているからと、自分も同じように板の間に寝て、夏には蚊帳も付けずに、冬でも何もかぶらずにいたという。差し入れは弁当や衣類のみならず、季節がわかるように、「花」やドラマのとおり「蛍」などを届けたという。まさにタイトルどおり「愛の蛍」だった。

 維新後、武市家の家録は没収されており家庭は貧困を極め、縫い仕事、袋貼り、マッチの箱貼り、押し絵づくりなどをしてようやく生計を立てていたらしいが、その後養子を迎え、その子に半太と名付け家督を継がせた。明治24年に朝廷から半平太に正四位が贈位された際、弟を伴って上京した冨に対し後藤象二郎板垣退助は、「半平太を死に追いやったのは、いかにも間違いであった」と詫びている。その後の武市家は田中顕助らの尽力もあって経済的には楽になり、養子・半太に半平太の甥の娘を娶わせ武市家を守った。そして大正6年、86歳まで天寿を全うする。

 冨が亡くなる5年前の大正元年、82歳の冨が実に50年近く前の夫を偲び詠んだ歌がある。
 「時しあれば 吹かでも花はちるものを 心みじかき 春の山風」 武市冨
 大意は、「時が来れば風の吹かなくても花は散るのに、なぜあなたは春の山風のように急いで散ったのですか」といったもので、15年間ほどの短い夫婦生活にもかかわらず、その後半世紀、亡き夫を思い続けた冨の心がうかがえる。冨の心にはいつも自分を慈しんでくれた夫が生き続けていたのだろう。心から妻を愛した武市半平太と、夫亡き後その思いを50年守り続けた貞節の妻・富。半平太の短い生涯は、冨という妻にめぐり合えた一点でのみ、幸せだったと言えるかもしれない。


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by sakanoueno-kumo | 2010-06-14 01:54 | 龍馬伝 | Trackback(7) | Comments(2)  

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Commented by みーおでん at 2010-07-12 17:42 x
はじめまして。

坂の上の雲さんとお呼びしてよろしいのでしょうか。

武市さんとお富さんのエピソード、私も「竜馬がゆく」で知りまして
とても武市さんを好きになりました。

そしてこの記事を拝見して、また涙が出ました。
本当にお互いに思い合った御夫婦だったのですね。

武市さんの望み通り、是非生まれ変わっても一緒になってほしいです。
歴史にお詳しくて読ませていただいてとてもわかりやすく感心しました。またお邪魔させてください。^^
Commented by sakanoueno-kumo at 2010-07-12 23:01
< みーおでんさん。
はじめまして。
過分なお言葉ありがとうございます。

暗殺の黒幕というダーティーなイメージが拭えない武市半平太ですが、この妻・富とのエピソードが、彼の誠実な人柄を後世の私たちに教えてくれます。

この「龍馬伝」でも、そのことを十分に伝えてくれました。
大森南朋さんと奥貫薫さんの演技も素晴らしかったですね。

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