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浜岡原発停止に思う。

 東日本大震災発生から2ヵ月足らずの5月6日、菅直人首相は、静岡県にある浜岡原子力発電所の現在運転中の4号機、5号機の運転を停止するよう、中部電力に要請したと発表しました。理由は、この浜岡原発のある地域が、過去100年〜150年ごとに繰り返し発生している東海地震の震源域に立地し、今後30年以内にマグニチュード8クラスの大地震が発生する可能性が87%と、極めて高い確率だからだそうです。この確率については、専門家の方々からも異論が出てきていないようですから、信憑性のある数字とみていいのでしょう。であれば、何でそんな危険な場所に原発を建てたのか・・・という話になりますが、その話はひとまず横に置いて、今すぐ浜岡原発を停止することが、私たちの生活にどのような影響を及ぼすのかを考えてみます。

 この度の菅首相の要請は、地元自治体や中部電力への根回しも無いままの唐突な全面停止要請だったと聞きます。経済産業省原子力安全保安院によると、今回の浜岡原発の停止は、津波対策の強化などに必要な概ね2年程度とのことですが、政府からは、その間の具体的な電力需給の方法や、その影響の考査といったものが全く示されていません。

 そこで、懸念される事態を考えてみると、最も危惧されるのが、電力需要ですよね。中部電力は今年の夏の電力需要のピークを2560万キロワットと見込んでいるそうですが、原発の運転停止によって、このままでは供給力の余力がほとんど無くなってしまうそうです。代替エネルギーの確保を早急に進めざるを得ないとともに、福島原発事故後、東京電力東北電力に支援してきた約40万キロワットの電力の供給も難しくなるそうです。そうなると、また、“節電”“計画停電”などという言葉を避けて通れなくなります。これ以上、節電の必要性を迫られれば、ただでさえ電力不足による自粛ムードで停滞しがちな経済に、さらに追い打ちをかけるようなマイナス作用がはたらくことは避けられないでしょう。中部電力から電力供給を受ける中部地方は、トヨタ自動車をはじめ日本を代表する製造業の集積地です。計画停電などの大幅な節電を強いられることになれば、生産への打撃は避けられません。さらに、震災の影響で東日本での生産を西日本に移すなどしていた企業にもまた混乱を生じさせることになります。経済の冷え込みは国力の低下に繋がり、結局は復興を遅らせることにもなるのです。

 さらに、今回の要請を受け、全国で反原発運動が活性化し、ドミノ式に原発が停止していく可能性もあります。これについて菅首相は、浜岡原発以外の原子炉については、巨大地震に見舞われる可能性が低いとして、停止を要請する考えはないと名言していたようですが、それで他の原発地域に住む方々が納得できるとは思えません。福島原発事故の現状を見れば、一刻も早く自分たちの地域の原発も停止してほしいと考えるのは、当然のことでしょう。では、すべての原発を今すぐ停止することが、果たして可能なことなのかどうか、残念ながら素人の私にはその判断材料がありません。仮に可能だったとして、原発に変わるエネルギー源を火力発電水力発電に頼ることになるのでしょうが、当然、コストの問題が生じます。中部電力によると、今回の浜岡原発停止で、原発分を火力で代替すると、発電コストが1日7億円年間約2500億円増える見通しだとか。これが日本全国となると・・・途方も無い金額になるでしょうね。当然それは、“電気代”という形で、私たちの生活にはね返ってくることが想像できます。それは単純に一般家庭の生活費がアップするというだけではなく、企業の生産コストアップにも繋がり、また、経済の冷え込みに拍車がかかることになるでしょう。原発廃止が物理的に可能だとしても、国民の生活に大打撃を与えることは避けられないように思えます。

 とはいえ、いつ東海地震が起きても不思議ではないという状況で、福島原発事故によって明らかになった国と東京電力の安全管理の杜撰さを見れば、浜岡原発の停止は当然という意見もわかります。もし、数ヵ月後にも巨大地震が発生したら、今回の菅首相の判断は“大英断”ということになるのでしょう。しかし、今回の要請について、菅首相が日本全体の電力不足や経済への影響、国民の生活に配慮した形跡は、どうも見受けられません。“菅降ろし”の気運が与野党ともに高まる中、起死回生の政権浮揚を狙った、破れかぶれのパフォーマンスとも思えます。政府は、国民や企業が納得のいく説明と対策を示すべきではないでしょうか。

 勘違いしないでほしいのは、私も、将来的には原発に頼らない社会を目指すべきだとは思っていますし、そのために、人類が持てる英知を結集すべきだとも思います。しかし、福島原発事故で日本中が神経質になっている今、その煽りを受けて足早に原発廃止を進めることが、はたして国民にとっていいことなのか・・・と思うのです。「戦後最大の国難」といわれる今だからこそ、冷静になって考えるべきではないでしょうか。


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by sakanoueno-kumo | 2011-05-11 18:20 | 時事問題 | Trackback | Comments(7)  

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Commented by タブチ君 at 2011-05-17 17:46 x
ご無沙汰しております。
また5月11日の記事に対するコメントとしてはいささか遅きに失するとは思いますが、ご無礼を。
まさに今回の管首相の決断は、歴史的決断かと思われます。
あたかも井伊大老独断専行の条約締結のような。あたかも突出した桜田門外の変のような。そのことは、日本にとって、日本人にとって前進なのか、後退したのか。
後世の評価において、歴史的大英断、名宰相といわれるか、ボンクラ宰相として蔑まされるか。ただ一つ言えることは、ヤーメタ、と言わないだけ立派ではあります。
我々歴史好きの者にとって、こうした大決断は、歴史物語おいては、単なるその1ページ、通過点としてさんざん読んできたはずではありますが、現実に自分がその大決断に遭遇したとなると、その事が良いのか悪いのかとんと見当もつかない、という自分に苛立ちます。
あらためて思い出されるのは、あの江での、歴史の曲り角に立った当事者として信長が、光秀が、わからぬ、というあの心情は以外と真実であったかも、、、、(笑)。
ー続く
Commented by タブチ君 at 2011-05-17 17:48 x
また、幕末の志士たちは後世での歴史を意識していた、とこれも司馬氏の何かのエッセイで読んだ記憶があるのですが、その歴史の局面に立った当事者にとって、その決断はほんとうに良いのか、悪いのかその当事者にとっても多分確信が持てなかったのではあるまいか。歴史上の英雄とされる者は、確信に満ち、自信満々として決断していく、というふうに小説、ドラマで我々は見聞きしてきているが、ほんとうはそうではなかったのではないか。そうしてみると、その決断の精神的拠り所は、歴史に名を残す、という一念しかないのではあるまいか。
ところで、私は浜岡原発エリア、遠州は遠江の国に居住しておりますので他人事ではありません。
Commented by sakanoueno-kumo at 2011-05-19 00:59
< タブチ君さん
まさしく、英断と愚断は紙一重だと思いますし、後世に英断と評価されるものも、その時代には愚断と批判されたものも多かったのではないかとも思えます。
おっしゃるように、確信を持って決断することなど不可能で、指導者は常に迷いの中で選択していくものなのでしょう。
ただ、それだけに熟慮の末の決断であってほしいと思いますし、歴史に名を残したいという一念があるならば、なおさらその場の人気取りや世論に流されるような決断であってはならないと思います。
今回の菅さんの決断は、地震発生からこれまでの後手後手にまわっていた震災対策の汚点を払拭しようという思惑がはたらいた決断のように思えてなりません。
そのあたりが、歴史上の偉人たちの決断と、民主主義の指導者との違いといえるかもしれません。
(続く)
Commented by sakanoueno-kumo at 2011-05-19 01:02
< タブチ君さん
遠州国にお住まいですか。
斯波氏、今川氏どころですね。
であれば、東海地震云々の理由を聞けば浜岡原発停止はやむを得ないといったご意見でしょうか。
私も、そのことだけで見れば異論はないのですが、経済への影響がやはり心配です。
福島原発事故の被害者の方々は気の毒としかいいようがありませんが、長い不況によって毎年3万人以上もの人が自殺しているという実情も忘れてはならないと思います。
放射能汚染によって十数年後に発癌するかもしれない怖さは否定できませんが、これ以上、経済が冷え込めば、今死ね、と宣告されるのと同じ、という人もたくさんいるのです。
お叱りを覚悟でもっといえば、毎年1万人近くの人が交通事故で亡くなっているのに、世の中から車を無くせ、という声にはなりません。
それは、危険なものだとわかっていても、現代社会から車を切り離しては考えられないからですよね。
原発は、日本経済を維持するためには切り離しては考えられないものだったんじゃないですかね?
そんな簡単に無くしてしまえるものなんでしょうか?
そのあたりが、今回の菅さんの決断がどうも早計に思えてならない理由です。
(続く)
Commented by sakanoueno-kumo at 2011-05-19 01:06
< タブチ君さん
ただ、これまで絶対に安全だといい続けてきた原発が、実はこんなにも脆いものであったという現実を突きつけられたわけで、その安全管理の杜撰さを国と東電が責められるのは当然だと思います。
知れば知るほど、“想定外”でもなんでもないですからね。
しかし、その責めを東電だけに押し付けて、自身は汚名挽回のためだけに浜岡原発停止を決断したとすれば、史上最低の総理だと私は思います。
それは、たとえ結果オーライであったとしてもです。
Commented by SPIRIT(スピリット) at 2011-06-04 15:10 x
ウェーバーの言によれば、
『政治は結果責任』
だそうですけど、菅総理が浜岡原発を停止した結果がどう出るかはまだわかりません。

ただ、総理は原発に代わる代替エネルギーのビジョンを一刻も早くしめすべきでしょうね。(風力、太陽光、燃料電池等ありますが)
不信任案やら、税と社会保障の一体改革やらでそれどころじゃないみたいですけど。
Commented by sakanoueno-kumo at 2011-06-04 19:26
< SPIRIT(スピリット) さん

今回の事故によって、日本の原発の安全管理がいかに杜撰なものであったかがわかりましたし、その意味では、危険な立地条件にある浜岡原発を一日も早く停止する方向性を示すことは必要だったでしょう。
しかし、あまりにも唐突で、それによってのリスクの想定も甘すぎるように思えます。
福島原発事故による放射能汚染問題も深刻ですが、震災以降の電力不足で停滞してしまった経済状況も深刻度でいえば同じだと思います。
将来的には、原発廃止の方向に向けて進んでいかねばならないとは思いますが、そう一足飛びで出来ることでもありません。
時間をかけて、あらゆる方面からの視野で検討していく必要があるのではないでしょうか。

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