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八重の桜 第10話「池田屋事件」 ~池田屋の変~

 新選組が日本史のなかに大きく名を刻むきっかけとなったのが、元治元年(1864年)6月の「池田屋事件(池田屋の変)」といっていいでしょう。前年の「八月十八日の政変」以後も、尊攘派志士は京都・大坂に潜伏して、勢力の挽回をはかっていました。新選組や所司代・町奉行の配下の者は、きびしくその行動を取り締まっていましたが、ことに諸藩邸や旅館、料亭などの出入者に対して目を光らせていました。そして、かねてからマークしていた三条木屋町の武具商・桝屋喜右衛門を検挙し、家宅捜索を行いました。

 喜右衛門の本名は古高俊太郎、近江国栗太郡出身の尊攘志士でした。捕縛された俊太郎は新選組の手によって厳しい拷問にかけられ、結果、力尽きて自白してしまいます。その内容は、数十人が徒党して、風向きを考えた上で御所に火を放ち、佐幕派公卿の中川宮朝彦親王を幽閉して京都守護職の松平容保ら佐幕派大名を殺害し、天皇を長州へ連れ去ろうという恐るべきもので、しかも、すでに計画実行の志士が多数上洛、潜伏しており、近々市中で同志の集会があることも判明します。

 古高俊太郎捕縛の報を受けた尊攘志士たちは、長州藩の桂小五郎(木戸孝允)をはじめ、肥後藩の宮部鼎蔵ら約20名が、旅館・池田屋に集合して善後策を協議します。この会合を知った新選組は、京都守護職および所司代に報告し、五ツ時(午後8時)に協力して襲撃することとしますが、守護職、所司代ともに部下の援軍がなかなか来ないので、四ツ時(午後10時)、新選組の単独行動で襲撃を決行しました。不意をつかれた尊攘派は懸命に応戦し、旅館の内外は大混乱。新選組局長・近藤勇は、その夜の様子を次のように記しています。

 「かねて徒党の多勢を相手に火花を散らして一時余の間、戦闘に及び候処、永倉新八郎の刀は折れ、沖田総司刀の帽子折れ、藤堂平助の刀は刃切出でささらの如く、倅周平は槍をきり折られ、下拙刀は虎徹故にや無事に御座候、藤堂は鉢金を打ち落され候より深手を受け申し候」
(徒党の多勢相手に火花を散らし、一時あまりの間、戦闘におよんだところ、永倉の刀は折れ、沖田の刀は帽子折れ、藤堂の刀は刃切れ、ささらのようで、倅の周平は鑓を切り折られ、下拙(自分)の刀は名刀虎徹であるからだろうか、無事であった。藤堂は鉢鉄を撃ち落とされたので、深手を受けた)

と、戦闘の激しさを仔細に伝えたうえで、

 「実にこれまで度々戦ひ候へ共、二合と戦ひ候者は稀に覚え候へ共、今度の敵多勢とは申しながら孰れも万夫不当の勇士、誠にあやふき命を助かり申候」
 (じつにこれまで、たびたびの戦いをしてきたが、二合わせ戦った者はまれに覚えているほどであるが、今度の敵は多勢であるとはいえ、いずれも万夫の勇者で、まことに危ういところを助かった)

と、戦った尊攘派志士たちに対しての感想を綴っています。

 戦闘のあと、守護職・所司代配下の者など約3000人もが駆けつけましたが、その時には多くの志士たちの息はなく、池田屋の女将までもが死にました。幸運に命が残った者は捉えられ、わずかに桂小五郎、渕上郁太郎らがからくも脱出します。小五郎は一旦池田屋を出て対馬藩邸で大島友之允と談話していたため、襲撃時に池田屋におらず難を逃れたと言われていますが、別の話では、小五郎はこのとき屋上に出て間一髪逃げ去ったという記録もあります。芸者の幾松が、夜の暗闇にまぎれて二条大橋の下に握り飯を運んで、小五郎を助けたという有名な逸話も、このときの話とされています。いずれにせよ、このときもし小五郎が新選組とまともに戦っていたら、のちの維新三傑に名を連ねることもなかったでしょうし、明治維新における長州藩の立ち位置も違ったものになっていたかもしれません。

 一方、この事件で宮部鼎蔵をはじめ、尊攘派の多くの有能な人材が命を落としました。もし、彼らが明治の世まで生きていたら、新政府高官として大いに尽力したことでしょう。しかし、彼らの死がまったくの犬死だったかといえば、そんなことはなく、この事件をきっかけに尊攘派の反幕思想はより激しくなり、討幕の気運を一気に高めたことは想像に難しくありません。歴史の犠牲となった宮部鼎蔵と、歴史に生かされた桂小五郎。この紙一重の運命の違いも、歴史の面白いところですね。


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by sakanoueno-kumo | 2013-03-12 15:40 | 八重の桜 | Trackback(2) | Comments(0)  

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