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八重の桜 総評

 遅ればせながら、2013年NHK大河ドラマ『八重の桜』の総括です。最終回が終わって2週間が経ちましたが、なかなかまとめの稿をアップできなかったのは、年の瀬で多忙だったこともあるのですが、イマイチ起稿意欲がわかなかった・・・というのも正直なところです。その理由は、これといった感想が思い浮かばない、特筆すべき点が見当たらない、というのが率直な感想なんですね。じゃあ今年の大河は駄作だったのか・・・というと決してそうではなく、わたしの中ではけっこう良い評価です。だけど、終わってみればとくに何も印象に残っていない・・・。矛盾したことを言っていますが、わたしにとって『八重の桜』は、そんな作品となりました。

 演出は実に丁寧できめ細やかでしたね。映像も綺麗でしたし、史実時代考証も、近年の他の作品と比べれば丁寧に描けていたと思います。脚本もしっかりしていましたし、でも決して作者の主観を押しつけるようなクドさもなく、丁寧なストーリーだったと思います。そう、このドラマを一言でいえば、とても「丁寧」に作られたドラマだったと思うんですね。ただ、丁寧=面白い作品となるかといえば、必ずしもそうではないということでしょう。ドラマがエンターテイメントである以上、観る人を引きつける「魅力」がなければ「名作」とはなりません。その魅力が、本作には足りなかったような気がします。

 魅力に欠けたのは、新島八重というマイナーな人物を主役にしたからだ・・・と言う人もいるでしょう。たしかに、わたしもこの作品の制作発表時に、はじめて新島八重という人物を知ったひとりです。でも、無名だから魅力がないという見方は短絡的だと思うんですね。たとえば、2008年の『篤姫』なども、決してメジャーな人物ではありませんでしたが、あれほど多くの支持を受けました。逆に、誰もが知ってる『平清盛』が、視聴率的には超低空飛行でしたよね(わたし個人的には評価は高いですが)。要は有名か無名かではなく、どれだけ主人公の魅力を引き出せるか・・・だと思うんですね。

 このドラマで、会津藩士たちの無念さはよくわかりましたし、定番の薩長史観の幕末史とは違う、会津視点の幕末史を楽しめました。詳しく知らなかった山本覚馬の維新後の活躍も知ることが出来ましたし、新島襄という人物のことも、同志社の成り立ちも深く知ることができました。でも、どれもこれも丁寧に描きすぎたがゆえに、八重の存在感がイマイチなかったですよね。別に八重がいなくても物語は成立していたのでは?・・・と言ったら言い過ぎかもしれませんが、物語は丁寧な会津史であり同志社史ではありましたが、新島八重史ではなかったというか・・・。だから、八重に感情移入したり共感したりすることが難しかった・・・というのが正直なところです。

 魅力に欠けていた・・・というのは、そういうところだと思うんですね。たとえば、先述した『篤姫』などは、あのドラマをきっかけに篤姫を好きになった人や、篤姫という女性に興味をもったひとが大勢いたと思いますし、もっとわかりやすく言えば、司馬遼太郎氏の小説『竜馬がゆく』を読んで、坂本龍馬ファンになった人は世の中に山ほどいるでしょう。もちろん、素材そのものの持つ魅力もあるでしょうが、作家さんの力も大きいと思います。このたびのドラマで新島八重ファンになった人がどれだけいたでしょうね。そのあたりが、丁寧に作られた作品なのに、イマイチ支持が得られなかった大きな理由ではないでしょうか。

 ちょっと辛口のまとめとなりましたが、俳優さんたちは皆、素晴らしかったですね。とくに主演の綾瀬はるかさんは、あらためてスゴイ女優さんだと思いました。綾瀬さんといえば、同じ幕末を舞台としたドラマ『JIN -仁-』が思い出されますが、あのときのという女性の役と、今回の八重役とでは、表情発声姿勢もまったく違ったもので、同じ女優さんが演じているとは思えないほど別人になりきっていましたね。素人が知ったようなことを言って恐縮ですが、何を演じても同じ人物に見える俳優さんもたくさんいます。その点、綾瀬さんは素晴らしかった。もはや大女優といっていいかもしれません。普段は超天然だそうですが(笑)。

 それと、新島襄役のオダギリジョーさんもさすがでしたね。容姿も去ることながら、実際の新島襄という人物も、きっとこんな人だっただろうと思わされました。あと、山本覚馬役の西島秀俊さんは、ちょっとカッコ良すぎた気がしないでもないですが、今回のドラマでもっとも興味を持ったのは、山本覚馬という人物でした。もっと覚馬という人物のことを知りたい・・・と。その意味では、いちばん魅力的に描かれていたのは山本覚馬かもしれません。あと、忘れてはならないのが、小泉孝太郎さん演じるところの徳川慶喜。わたしの知る限り、これまでの慶喜のなかでもっとも慶喜っぽい慶喜でした(笑)。

 さて、来年は黒田官兵衛孝高が主人公ですね。そして、先ごろ発表された再来年の大河は、吉田松陰の妹が主人公だとか。来年の官兵衛は、戦国ファンなら誰もが知っている人物でしょうが、再来年の吉田松陰の妹なんて、大河ドラマ史上もっとも無名な人物かもしれません。ただ、先般申し上げたように、大切なのは有名無名ではありません。その人物の魅力をどれだけ引き出せるか・・・ですね。もちろん、だからといって虚像で固めた人物であってはいけないでしょうし、たぶんそれでは魅力的な人物にはならないでしょう。素材の持つ魅力をどれだけ描けるか・・・これって、決して簡単なことではないんでしょうけどね。でも、視聴者はそれを待っています。作り手の腕の見せどころですね。

 いささか辛口なことばかり述べてきましたが、冒頭で申し上げたとおり、わたしにとって本作は、けっして評価の低いものではありません。名作とはいえませんが、良作ではあったと思います。ただ、少し塩コショウが足りなくて、薄味な物足りなさがあった・・・というのが率直な感想です。昨年、今年と低視聴率が続いていますが、わたし個人的には、一昨年までの作品から一変した大河ドラマの方向性としての趣旨は間違っていないと思います。あとは塩コショウの加減だけかと・・・。ともあれ、1年間楽しませてもらえました。このあたりで、『八重の桜』のレビューを終えたいと思います。

●1年間の主要参考書籍
『新島八重の維新』 安藤優一郎
『新島八重 愛と闘いの生涯』 吉海直人
『会津落城』 星亮一
『幕末史』 半藤一利
『日本の歴史19~開国と攘夷』 小西四郎
『日本の歴史20~明治維新』 井上清
『明治という国家』 司馬遼太郎
『幕末維新のこと』 司馬遼太郎
『明治維新のこと』 司馬遼太郎



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by sakanoueno-kumo | 2013-12-28 22:04 | 八重の桜 | Comments(4)  

Commented by ブラック奄美 at 2013-12-29 11:55 x
総括レビューお疲れ様でした。とても興味深く拝見いたしました。本作は、私にとっては非常に「入れ込んだ」作品で、京都市内の関連史跡は全て観て回りましたし、同志社の公開講座も4回出席しました。ただ講座の中では私が最も知りたかったこと(会津の恭順の真意や、覚馬や八重は実際にはどこまで非戦論者だったのか?等)までは踏み込めませんでしたが。同志社においては新島襄に関しては研究が進んでいますが、覚馬や八重に関しては本格的な研究は今作を契機に堵についたところ・・・・といった印象でした。

さて、今作の主人公の魅力がイマイチ乏しかったと評するレビューは、坂雲さん以外にも多くの方が起稿されており、中には非常に軽妙な表現で今作を「病院食大河」と評されているものもありました。栄養バランスは行き届いているものの薄味で旨みが乏しいということですね。なんとなく私も理解できるのですが、さればどのような脚本にすればそのような謗りは免れたのか、自問自答してもなかなか解は見つかりません。難しいものです(苦笑)

・・・・次稿へ続く

Commented by ブラック奄美 at 2013-12-29 12:08 x
私は、本作の魅力を歴史的な描写もさることながら、むしろそれ以上に別な方面に見出しています。それは現代人が豊かさの陰に置き忘れてきたもの。忘れてきた故、その影響が現代社会に歪となって現れてきているもの。いじめや親子、夫婦の虐待、隣人など全く意に介さない人間関係の希薄さなどが何かと話題になる現代において、「道徳教育の重要性」「親と子の向き合い方」「地域コミュニティのありかた」「誇りを忘れず信念を貫くことの価値」などを、改めて視聴者に問い直してきたことに、本作の大いなる魅力や意義があったのではないかと考えています。

又、川崎尚之助という、かつては篭城戦時に逃亡か?と不名誉なことまで言われた会津の恩人の復権の足がかりとなったことも大きいですね。正月休みには彼の生誕地の出石にも廻ってくるつもりです。

いずれにしても魅力あふれる名も無き先人が大河を契機に世に出てくることは非常に喜ばしいことで、再来年の「花燃ゆ」も、是非そのような大河であって欲しいと願っています。

最後になりましたが、貴兄のブログがこれからもますます発展していきますよう、心より祈念しております。
Commented by sakanoueno-kumo at 2013-12-31 22:15
< ブラック奄美さん

RESおそくなってスミマセン。
今年は例年になく忙しく、嬉しい悲鳴ではあるのですが、大晦日のこの時間というのにまだ会社にいます。
年を越す前にRESしなければと思い、ブログを立ち上げました。

>本作は、私にとっては非常に「入れ込んだ」作品

福島県出身ではないですよね。
同志社出身とか?
私の知人にも同志社出身の人がいて、その人はたしかに熱心に観ていたようですが、同志社に縁のない私にとっては、大学創始期の話にはイマイチ興味が湧きませんでした。
会津戦争以降、物語のスケールがグッと小さくなった気がして・・・。

病院食大河・・・なるほど言い得て妙ですね。
ただ、以前にもお話させてもらったとおり、私はそういう類の揶揄した批判は好きではありません。
言ってることは私と同じかもしれませんが、◯◯大河なんて表現すると、なんか作り手を小馬鹿にしているように感じます。
まあ、私の個人的な意見ですけどね。

つづく

Commented by sakanoueno-kumo at 2013-12-31 23:03
つづき

>現代人が豊かさの陰に置き忘れてきたもの。忘れてきた故、その影響が現代社会に歪となって現れてきているもの。

おっしゃるとおりですが、それらのテーマは、本作に限らず過去の歴史ドラマのほとんどに込められてきたもので、キツイ言い方をすれば、ある意味使い古された感があるんですよ。
何かを得ると何かを失うのは当然の摂理で、昔はよかった的なメッセージには、私はあまり心を動かされません。
私が歴史ドラマに求めるものは、偉人たちの生き方の中に、現代の私たちの生きる道標がある・・・時代が違えど、いまも昔も変わらない人の道がある・・・それを見つけたいんですね。
いわば『プロジェクトX』歴史版のような(笑)。
それには、主人公は魅力的な生き方をしてほしいんです。
となれば、私が思う、このドラマにもっとも込めるべきだったメッセージは、貴兄が一番最後にあげられた、「誇りを忘れず信念を貫くことの価値」だと思います。
幕末に逆賊となった会津の人たちの誇りある生き方を、もっと感じさせてほしかった。
あまりたくさんのメッセージを盛り込むと、要点が伝わりにくくなるものです。
いい作品だっただけに、そこがちょっと残念でしたね。

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