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花燃ゆ 第3話「ついてない男」 ~黒船来航と将及私言~

 脱藩の罪で武士の身分を剥奪された吉田松陰は、実父である杉百合之助のもとで育(はぐくみ)となります。「育」とは、長州藩にある制度で、公式の居候、公式の厄介者といった意味らしく、現代でいうところの保護観察のようなものだとか。つまり、松蔭の身柄を実家にあずけて、再び不始末を仕出かさぬよう監視せよ、ということですね。ただ、もとより松蔭は吉田姓を名乗りながら杉家で暮らしていましたから、禄と扶持を失いはしたものの、生活は以前と変わりありません。加えて、藩士の「育」だから、侍の恰好をしても良いし、他藩の者に自らを「長州藩士」と名乗っても罪にはならないそうで、つまるところ、「たてまえ」の処分だったわけですね。さらに、将来有望な松蔭の才能を腐らせないために、藩主・毛利敬親は百合之助に対して、松蔭の10年間の諸国遊歴願を出すよう命じ、これを許可しています。こうなると、もはや罪人とはいえませんよね。いかに長州藩が松蔭に期待していたかがわかりますが、この過保護ともいえる甘さが、罪に無頓着な松蔭を作ったといえるかもしれません。

 嘉永6年(1853年)正月、諸国遊歴に旅立った松蔭は、讃岐、摂津大坂、大和、伊勢などの各地を訪問しながら東へ向かい、5月24日にいったんは江戸に着いたものの、すぐさま相模鎌倉にいる叔父の竹院に会いに行き、そして再び江戸に戻ったのは6月4日でした。ところが、その前日の6月3日の午後2時頃、驚天動地の事件が発生していました。アメリカのペリー提督率いる軍監4隻の艦隊が、江戸湾浦賀沖に来航したのです。一般に「黒船来航」と呼ばれるこの事件から、「幕末」といわれる時代が始まります。

 突如出現した黒船艦隊を見た当時の人々の驚きは大変なものだったでしょうね。これが現代であれば「黒船来航なう!」とか言ってSNSで瞬時に伝わるでしょうが、ときは160年前の江戸時代。当然ながら伝達手段は口コミ手紙しかありません。にも関わらず黒船来航のニュースは、わずか2週間足らずで北は八戸から南は薩摩までほぼ日本中に知れ渡ったといいますから、この出来事がいかにビッグニュースだったかがわかります。

 結局、このときは何も出来ずにただ眺めるだけだった松蔭ですが、この出来事に刺激された彼は、佐久間象山の塾で西洋兵学を懸命に学びます。ペリー艦隊が撤退して間もない頃は、「次にペリーが来たら、刀の切れ味を試してやります」などといった書状をマブダチの宮部鼎蔵に送ったりしていた松蔭でしたが、象山の塾で西洋を学べば学ぶほど、日本に勝ち目がないことを悟らざるを得ませんでした。そして、欧米列強と互角に戦うには、まず敵を知るため海外に留学するしかないと考え至ります。一説には、象山が留学の必要性を松蔭に説き、海外密航計画を持ちかけたとも言われますが、定かではありません。

 ちょうどその頃、ロシアのプチャーチン提督が艦隊を率いて長崎に来航していました。この情報を知った松蔭は、愛弟子の金子重輔とともにプチャーチン艦隊に潜入すべく、長崎に向かいます。しかし、二人が長崎に着く3日前、艦隊は長崎を出港していました。松蔭は九州に入ると、すぐに長崎には行かず、熊本の宮部鼎蔵や横井小楠に会いに行っていました。そのロスタイムが仇となるんですね。寄り道を決行した自身の浅はかさを、大いに悔やんだことでしょう。

 ドラマで騒ぎになっていた意見書は、「将及私言」というタイトルが付けられた上申書で、実際にこの時期の松蔭が藩主に宛てて書いたものです。ドラマでも言っていたように、武士の身分を剥奪された「浪人」が、藩主に意見書を出すなどは、この当時、考えられない僭越沙汰でした。あるいは死罪になるかもしれないほどの畏れ多い行いであるにもかかわらず、このなかで松蔭は、来春のペリー艦隊再来航に備えて、藩内の改革案をかなり具体的に言及しています。また、あるいは国内に革命が起こるかもしれないとも説き、藩としてその備えが必要だと説いています。まだ、倒幕云々といった思想は微塵もなかったこの時期においては、かなり危険な言説だといえるでしょう。そして最後に、「この意見書が上に達せられたならば、どのような厳罰を受けようとも、決して恐れたりはいたしませぬ」と、書いています。「私」を滅して「公」のために尽くす。叔父・玉木文之進の教えは、松蔭のあらゆる行動の源泉だったのでしょうね。

  結局、この意見書は多くの段階を経て、藩主・毛利敬親まで達せられ、松蔭もお咎めなしでした。どこまでも藩はこの過激者に対して寛容でした。これが、長州藩の藩風だったのでしょうか。

 本話のタイトル『ついてない男』は、短期間に父・母・兄を亡くした久坂玄瑞のことですが、のちに松蔭をして「長州第一の俊才」と言わしめた玄瑞も、ペリー来航時は数えで14歳。現代で言えば中学1年生の歳で、歴史の表舞台に登場するには、いま少し時を待たねばなりません。


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by sakanoueno-kumo | 2015-01-19 20:58 | 花燃ゆ | Trackback(1) | Comments(0)  

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