花燃ゆ 第24話「母になるために」 ~来島又兵衛の進発論と、そうせい侯~

 文久3年(1868年)の八月十八日の政変によって、京における政治基盤の一切を失った長州藩は、今後の対策を巡って藩内が紛糾していました。政庁内は、藩の名誉回復勢力挽回を目指して挙兵、京に向かうべし!・・・とする「進発派」と、それを時期尚早とする「割拠派」に分かれます。進発派の中心人物は、長老格の来島又兵衛。長老と言っても、このとき又兵衛は48歳で、長州藩きっての豪傑とて名高く、幕末より戦国時代に生まれたほうが似つかわしい人物でした。彼は上洛を声高に主張しながら、高杉晋作が作った奇兵隊を見習って、さまざまな身分の有志600人を集めた「遊撃隊」を組織し、周防三田尻に駐屯します。

 藩当局も一時は又兵衛の主張に傾いていたのですが、京に潜伏している桂小五郎らの反対意見などもあって方針を一変、慎重論に変わります。しかし、又兵衛はそれで収まるはずがなく、言動はさらに激しさを増していきます。又兵衛は隊士たちからの人望も厚く、隊は又兵衛と共に命を捨てるといった気運が高まり、いつ暴発してもおかしくないムードとなります。

 なんとか沈静化を図りたい藩当局は、又兵衛を説得する使者として、高杉晋作を派遣します。晋作はこの時期、奇兵隊総督の任を罷免され、藩内閣の閣僚ともいうべき「政務役」という重責の任に就いていました。このとき晋作は若干24歳異例の出世でした。三田尻に乗り込んだ晋作は、3日間粘って又兵衛の説得にあたりますが、24歳の晋作が48歳の又兵衛を説得するのは困難なことで、結局は徒労に終わります。すると、ここで晋作は何を思ったのか、萩に戻らずにそのまま船に乗り、脱藩してしまうんですね。これには藩当局はもちろん、又兵衛もビックリしたことでしょう。この辺が、高杉晋作という人の尋常ならざるところです。政務役に抜擢されてから、わずか半年のことでした。

 さて、今話はそれ以外に特に政治的な動きがなかったので、これまで書きそびれてきた長州藩主・毛利敬親についてふれてみたいと思います。ドラマでは、たいへん寛大で懐の深い殿さまとして描かれている敬親ですが、実際には、敬親は名君暗君かで意見が真っ二つに分かれる人物です。というのも、敬親は家臣の意見に対して異議を唱えることが皆無だったといい、ドラマで描かれているように、藩内保守派、改革派のどちらから上申されても、常に「ああ、そうせい」と許していたそうで、そんな敬親のことを家臣たちは、「そうせい侯」と陰で揶揄していました。そのため、後世に有能か無能かで意見が分かれていて、維新の原動力となった長州藩の藩主でありながら、いわゆる幕末の四賢侯にも数えられていません。

 実際にはどうだったかはわかりませんが、ただ、敬親のような人物が長州藩主であったからこそ、幕末の長州が長州たりえたといえるでしょう。ふつう他藩では、藩主の思想、意向によって政治が動くものですが、長州藩にはその機能がなく、家臣たちが藩を動かしました。そのせいで、高杉晋作や久坂玄瑞などの書生あがりが政治活動の中心になりました。藩主という抑制装置が機能していないため、藩の活動はどんどん過激になっていきます。それが、幕末の長州藩でした。幕末の日本史は、長州藩が大暴れしたことによって作られた歴史といっても過言ではありません。その長州藩を演出したのは、松蔭でも晋作でも玄瑞でもなく、敬親だったといえるかもしれませんね。もし、長州藩の藩主が、土佐藩の山内容堂のような人物であれば、晋作や玄瑞などはとっくに処刑されていたに違いないでしょうし、そうすると、日本の歴史もまったく違ったものになっていたかもしれません。

 「藩主として余はいまだ迷い、自問自答を繰り返す身じゃが. 志ある者の邪魔立てだけはすまいと決めておる。」

 何話か前の、との面会シーンでの敬親の台詞ですが、あるいは、このとおりの考えだったのかもしれません。幕末の長州藩主は、いわゆる「君臨すれども統治せず」だったわけですね。


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by sakanoueno-kumo | 2015-06-15 21:05 | 花燃ゆ | Trackback(1) | Comments(0)  

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