花燃ゆ 第25話「風になる友」 ~池田屋事件~

 八月十八日の政変によって長州藩が追い出されたことで、一時は静けさを取り戻したかに見えた京のまちでしたが、実はそれは表面的なもので、尊攘派の志士たちは京、大坂に潜伏して、勢力の挽回を謀っていました。そんななか、政変後に行われていた参預会議がもの別れに終わります。参預会議とは、一橋慶喜、島津久光、松平春嶽らが中心となって政局をはかった、いわば共和政治のような政治形態のことです。しかし、突然始まった連合政治でしたから、結局うまくは運営できずに短期間で瓦解してしまいます。これを政権奪還のチャンスと見た尊攘派の志士たちは、密かに京に集まってきました。

 そこで歴史の表舞台に一気に登場するのが新選組です。彼らはこの少し前から京都守護職・松平容保の預かりというかたちで京のまちの治安に当たるようになっていましたが、この新選組が日本史のなかに大きく名を刻むきっかけとなったのが、元治元年(1864年)6月に起きた「池田屋事件(池田屋の変)」でした。

 きっかけは、商人に化けて潜伏していた尊攘派志士の古高俊太郎が捕らえられたことに始まります。捕縛された古高は新選組の手によって厳しい拷問にかけられ、結果、力尽きて自白してしまいます。その内容は、数十人が徒党して、風向きを考えた上で御所に火を放ち、佐幕派公卿の中川宮朝彦親王を幽閉して京都守護職の松平容保ら佐幕派大名を殺害し、天皇を長州へ連れ去ろうという超過激な計画で、しかも、近々市中で同志の集会があることも判明します。

 古高捕縛の報を受けた尊攘派志士たちは、肥後藩の宮部鼎蔵をはじめ、長州藩の桂小五郎ら約20名が、旅館・池田屋に集合して善後策を協議します。この会合を知った新選組は、京都守護職および所司代に報告し、五ツ時(午後8時)に協力して襲撃することとしますが、守護職、所司代ともに部下の援軍がなかなか来ないので、四ツ時(午後10時)、新選組の単独行動で襲撃を決行しました。不意をつかれた尊攘派は懸命に応戦しますが、戦闘なれした新選組にはほとんど刃が立たず、結果、多くの志士たちが闘死、もしくは捕らえられて斬られます。すさまじい弾圧だした。

 松下村塾四天王のひとりだった吉田稔麿は、この池田屋事件で命を落とします。これまでだいたいの物語での稔麿の最期は、池田屋襲撃の事態を長州藩邸に知らせるべく現場から離脱するも、藩邸の門は開られることなく、門前で自刃するという描かれ方がほとんどだったと思いますが、今回のドラマでは、藩邸に向かう道中で気が変わって引き返したところ、その帰路で囲まれて斬られるという設定でしたね。どちらが事実なのか調べてみたところ、どうやら諸説あって定説はないようです。前者の自刃説は、同じくこのとき死んだ土佐藩の望月亀弥太の話と酷似していますから、それと混同した話のようにも思えます。その意味では、ドラマの設定のほうが真実味があるかもしれませんね。享年24歳。無念だったに違いありません。

 このときの桂小五郎にも諸説あります。よく知られる話では、小五郎は池田屋に早く着きすぎたので、一旦池田屋を出て対馬藩邸で大島友之允と談話しており、そのため、襲撃時に池田屋におらず難を逃れたと言われていますが、別の話では、小五郎はこのとき屋上に出て間一髪逃げ去ったという記録もあります。どちらが事実かはわかりませんが、のちに「逃げの小五郎」と言われた彼ですから、後者のほうが面白い気はしますけどね。いずれにせよ、このときもし小五郎が命を落としていたら、のちの維新三傑に名を連ねることもなかったでしょうし、明治維新における長州藩の立ち位置も違ったものになっていたかもしれません。

 この段階では、攘夷派のなかでは桂小五郎より宮部鼎蔵の方が、はるかにビッグネームでした。しかし、歴史は無惨にも宮部の命をここで終わらせてしまいます。歴史の犠牲となった宮部鼎蔵と、歴史に生かされた桂小五郎。この紙一重の運命の違いも、歴史の面白いところですね。


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by sakanoueno-kumo | 2015-06-22 17:38 | 花燃ゆ | Trackback(2) | Comments(7)  

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Commented by 50代の歴史好きのおっさん at 2015-06-23 12:31 x
いつも解説楽しくよませていただいてます。吉田稔麿は毛利屋敷前の自決が無念さを演出していたのですが、今回の解釈も無念さがでていましたね。それにしてもドラマの進行が凄く遅い、今は久坂が主人公なのでしかたがないですが・・・本来なら四カ国連合に負けて、蛤御門、長州征伐、薩長同盟、江戸城無欠開場、と、ぽんぽん話が進むのが大河でしたから。あまりの遅さにあくびが出ます。そういえば、10年前「新撰組」で菜っ葉隊隊長(新撰組にお味方いたす、といってお金を持ち逃げする役)で出演していた「びびる君」今回は新撰組に切られる役とは巡り巡って面白かったです。
Commented by sakanoueno-kumo at 2015-06-23 19:13
< 50代の歴史好きのおっさんさん

展開の遅さを指摘する声をよく耳にしますが、たぶん、脚本上の都合があるのでしょう。
大河では毎年、6月から7月の折り返し点(第25話前後)で、前半のクライマックスともいうべき出来事を置き、準主役的人物が死にます。
近年の作品で見ても、
『軍師官兵衛』では、竹中半兵衛の死が23話、本能寺の変が28話
『八重の桜』では、白虎隊の悲劇が26話、鶴ヶ城開城が29話
『平清盛』では、平治の乱勃発が26話で、27話で源義朝が死にます。
『龍馬伝』では、武市半平太の死が28話。
で、今回の『花燃ゆ』では、たぶん久坂玄瑞の死が、前半のクライマックスになるのでしょう。
再来週あたりかな?
で、8月頃に高杉が死んで、その後は楫取素彦を中心に話を展開していくつもりでしょうね。
楫取素彦という人はあまり有名じゃないですから、明治をあまり長く描くのは難しいんじゃないでしょうか?
今年の大河は、松蔭、玄瑞、晋作、素彦の4部作といったところでしょう。
Commented at 2015-06-24 12:10 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by sakanoueno-kumo at 2015-06-24 13:22
< 2015-06-24 12:10の非公開コメントさん

お申し出の件、了承しました。
もし良ければ、具体的な詳細を教えていただけますか?
非公開コメントであれば、わたし以外に見ることはできませんので。
あと、データはどのようなかたちでお渡しすればいいですか?
Commented at 2015-06-24 14:27 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by sakanoueno-kumo at 2015-06-24 15:57
< 2015-06-24 14:27の非公開コメントさん

委細承知しました。
ただ、現在手元にオリジナルデータがありません。
送らせていただくのは明日になりますので、ご容赦ください。
Commented at 2015-06-25 02:11 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。

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