花燃ゆ 第26話「夫の約束」 ~禁門の変(蛤御門の変) その1~

 八月十八日の政変によって京を追い出されていた長州藩は、名誉回復のために挙兵して京に向かうべし!・・・とする「進発派」と、それを時期尚早とする「割拠派」に分かれていましたが、一時は割拠派の意見が主流となっていたものの、そこに池田屋事件の知らせを入ると、進発派の藩士たちは烈火のごとくいきり立ち、そして、一度は廃案になっていた上洛案に、ふたたび火がつきます。それでも、慎重論の周布政之助らは懸命に藩論の沈静化に努めますが、ついに抑えきれなくなり、「三条実美ら七卿と藩主父子の冤罪を帝に訴える」ことを名目に、挙兵が決定します。

 この頃、藩の政務座役といなっていた久坂玄瑞は、当初は周布らと同じ慎重論でしたが、この2ヵ月ほど前に京で行われていた参預会議がものわかれに終わると、これを政権奪還のチャンスととらえ、兵の上洛に肯定的な立場をとりはじめていました。しかし、玄瑞のいう上洛とは来島又兵衛らのいう勇ましい進発論ではなく、あくまで名誉回復のための嘆願が目的であり、すぐに武力行使といった考えではありませんでした。

 元治元年(1864年)6月4日、藩当局から進発令が発せられると、玄瑞は来島又兵衛、真木和泉らと共に忠勇隊、集義隊、八幡隊、義勇隊、宜徳隊、尚義隊など諸隊を率いて、6月16日に三田尻を発ちました。そして京都近郊の山崎に着いた玄瑞は、さっそく長州藩の罪の回復を訴えた嘆願書を起草し、6月24日、朝廷に奉ります。これを受けた朝廷内では、当初は長州藩に同情的な考えを持つ公卿も多く、寛大な処置を要望する声もあがっていましたが、7月12日に武装した薩摩藩兵が上洛するとムードは一変。反長州派の勢いが盛り返します。朝廷内部でも、長州勢の駆逐を求める強硬派宥和派が対立していたんですね。ただ、どれだけ宥和派が声をあげても、肝心要の孝明天皇(第121代天皇)は長州掃討を望んでいたわけですから、結果は見えていたかもしれません。孝明帝は長州がよほど嫌いだったんでしょうね。

 そんなこんなで、一触即発の空気が張りつめた7月17日、男山の石清水八幡宮で長州藩幹部が集結した最後の軍議が開かれます。この席でも、来島又兵衛ら強硬派と久坂玄瑞ら慎重派が激しく対立するのですが、その時の会話の記録は克明に残されています。それによると、玄瑞は朝廷からの退去命令に背くべきではないとして、兵を引き上げる案を出しますが、又兵衛は
 「進軍を躊躇するとは何たることだ!」
と詰め寄ります。これに対して玄瑞は、
 「今回の件は、もともと君主の冤罪をはらすために、嘆願を重ねる目的だったはずで、こちらから戦闘を仕掛けるのは本来の志ではない。それに、世子君定平公もまだ到着しておらず、それを待った上で進撃の是非を決するべきである。いま進軍したところで、援軍もなく、しかも、わが軍の戦闘準備も整っていない。必勝の見込みの立つまで、しばらく戦機が熟するのを待つべきである。」
と提言します。すると又兵衛は怒気を露わにし、
  「卑怯者!!!」
と一喝。(べつに卑怯者ではないと思うんですけどね。この場合、「臆病者」といったほうがよかったんじゃないかと・・・)
 「医者坊主などに戦争のことがわかるか!! もし身命を惜しんで躊躇するならば、勝手にここにとどまっているがよい。余はわが一手をもって悪人を退治する!!」
捨て台詞を吐き、座を去ってしまいました。又兵衛の気迫に圧倒された一同は沈黙。そんななか、最年長で参謀格の真木和泉が、
 「来島くんに同意を表す」
と述べたことにより、進軍が決定しました。玄瑞はその後一言も発することなくその場を立ち去り、天王山の陣に戻ったといいます。そのとき歴史が動いた瞬間ですね。

 人は追い詰められると、過激な意見ほど魅力的に感じるといいます。後世から見れば、玄瑞の意見は至極もっともだと思えるのですが、前年の政変以来いじめられっ子だった長州藩士たちにすれば、玄瑞の冷静な分析よりも、又兵衛の勇ましい侍道の方が輝いて思えたのでしょうね。こうして、世に言う禁門の変(蛤御門の変)は始まりました。


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by sakanoueno-kumo | 2015-06-29 22:39 | 花燃ゆ | Trackback(2) | Comments(0)  

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