おんな城主 直虎 第50話「石を継ぐ者」 ~最終回~

 本能寺の変から約2ヵ月半が過ぎた天正10年(1582年)8月26日、井伊直虎がこの世を去ります。その死について、『井伊家伝記』では、たった1行だけこう記されています。


 天正十年午八月廿六日御遠行、法名妙雲院殿月船祐円大姉


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 直虎の享年は、誕生年が不明なために明らかではありませんが、許嫁だった井伊直親が生きていれば47歳だったことから考えれば、40歳代半ばから50歳前後だったと思われます。死因も定かではありません。直虎の晩年は、天正3年(1575年)以降、実母の祐椿尼とともに龍潭寺内にある松岳院という庵で過ごしたということ以外、何もわかっていないんですね。ただ、おそらくは井伊谷を出ることはなかったでしょうから、きっと、松岳院で南渓瑞聞和尚らに見守られての穏やかな最期だったのではないでしょうか。

 直虎の亡骸は龍潭寺の井伊家墓地に葬られました。直虎の右隣には祐椿尼が、左隣には直親が眠り、その横には直親の妻、そして末席には万千代こと井伊直政が眠ります。井伊家が最も危機的状況にあった時代を生きたこの5人が、肩を並べるように眠っているというのも、感慨深いですね。


 南渓瑞聞和尚は、直虎が死んだ7年後の天正17年(1589年)まで生きます。享年は不明ですが、直虎の祖父の弟という説が正しければ、かなりの長寿だったと思われます。井伊家の危機がはじまった井伊直満・直義の死から、直盛、直平、直親、小野政直・政次父子、そして直虎の死まで、すべてを弔ってきた南渓瑞聞和尚。最後は、直政が大名となって井伊家を再興させるところまで見届けて、この世を去ります。『井伊家伝記』によると、次郎法師に井伊家当主を継がせたのも、南渓だったといいます。結局のところ、当主不在の井伊家を実質率いていたのは、南渓だったといってもいいかもしれません。

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 直虎の死から3ヵ月後の11月、万千代は元服して井伊直政と名乗ります。22歳でした。通常、武家の子は15歳で元服するのが慣例で、何か特別な理由がない限り、22歳での元服は考えられない遅さでした。直政の場合、15歳で徳川家康に取り立てられ、すでに戦場を何度も経験しており、武功もたて、2万石を有する侍大将だったわけで、元服しない理由が見当たりません。なぜ直政はここまで元服しなかったのか・・・。その理由は判然としませんが、直虎の死の3ヵ月後に元服したという事実を鑑みれば、何か直虎の存在と直政の元服に関係があったと考えるのが自然かもしれません。直政がもし元服すれば、たったひとりの井伊家の男として、家督を継ぐことになるのはわかりきっていました。直虎の目の黒いうちは、それが出来ない、あるいはそれが憚られる何らかの理由があったのではないかと・・・。それが何かはわからないのですが。


 直政の「直」は井伊家の通字で、「政」は小野家の通字というドラマの設定には、思わず目頭が熱くなりました。小野但馬守には「政次」「道好」の2説あるのですが、実は「道好」の方が通説となっています。ところが、今回のドラマでは、俗説の「政次」を採りました。その理由は、これだったんですね。直政の諱には、直親、直虎そして政次が生きている・・・と。そして、3人の魂がこもった石(遺志)を継いだんですね。


 ナレーションにもあったとおり、その後、井伊家は260年に渡って徳川家の屋台骨となります。その礎を築いたのが直政だったわけですが、父の直親が死に、一時は滅亡しかけた井伊家が、直政によって再興されるまでの間にも、記録には残らない歴史があったはずです。その時代を描いたのが、今年の大河ドラマ『おんな城主 直虎』でした。『井伊家伝記』は伝えます。


 次郎法師は女こそあれ井伊家惣領に生候間


 本稿をもって大河ドラマ『おんな城主直虎』のレビューは終わりとなります。1年間、拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。近日中には総括を起稿したいと思っていますので、よければご一読ください。


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by sakanoueno-kumo | 2017-12-18 21:22 | おんな城主 直虎 | Trackback(1) | Comments(2)  

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Commented by heitaroh at 2017-12-20 18:00
見てなかったのでコメント出来る立場にないのですが、井伊直政の元服が遅かったのは、単に家康が男色として寵愛していたかったから・・・ではだめですか?
やっぱり、前髪落とさないほうが可愛いとか?
その方面はまったく門外漢なのでわかりませんが(笑)。
Commented by sakanoueno-kumo at 2017-12-23 00:32
> heitarohさん

といいながら、実はその道にお詳しいとか?(笑)
直政の色小姓説って、実際はどうだったんでしょうね。
たしかに、そう考えれば、直政の急激な出世がすべて合点がいくのですが。
直政はなかなかなイケメンだったといいますしね。
今回の大河では、その色小姓説を逆手に取った演出だったですね。
あっ、観ておられなかったですね。
失礼しました。

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