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西郷どん 第41話「新しき国へ」その1 ~岩倉使節団~

廃藩置県の改革が大きな反動を見ることなく施行されると、それから3ヵ月足らずの明治4年10月8日(1871年11月20日)、明治新政府は右大臣兼外務卿岩倉具視特命全権大使とする使節団を欧米に派遣するという策を決定します。いわゆる「岩倉使節団」ですね。そのメンバーは、副使に任命された木戸孝允(参議)、同じく副使となった新政府の事実上の首相である大久保利通(大蔵卿)、同伊藤博文(工部大輔)、同山口尚芳(外務少輔)らをはじめ、大物や重要な人物が多数含まれた48人という一大使節団でした。さらに、この使節団に便乗して私費を投じて欧米を視察しようという旧大名家の相続者や公家なども多数いて、それらを加えると100人を超えていました。


西郷どん 第41話「新しき国へ」その1 ~岩倉使節団~_e0158128_21545247.jpg 彼ら使節団の表面上の最重要目的は、不平等条約の改正問題でした。幕末期に旧幕府と欧米諸国とのあいだで結ばれた条約とその後の改訂によって、その後の日本は、貿易の慢性的な赤字に悩まされていました。これは、関税自主権の喪失治外法権の是認などにあったのですが、安政期に結んだこの条約の改正を求める発議ができるとされた期限が間近に迫っていたため、とりあえず、条約改正交渉の延期を申し入れるというのが、この使節団に課された責務でした。


 ところが、それだけの目的にしては、メンバーが豪華過ぎます。政府首脳の半分以上を動員するというこの使節団の最大の目的は、文明国の見学にありました。廃藩置県を断行したことで、とりあえず新国家のかたちは整った。しかしながら、政府首脳のほとんどが下級武士か公家出身で、行政については旧幕臣よりも赤子同然であり、ともかくも、西洋文明というのがどういうものであるかを知らなければ、今後の日本の舵取りができない。そのためには、実際に文明国に足を運んで、この目で確かめる必要があったんですね。たしかに、書物などの資料から得る知識だけでは限界があり、本質を学ぶにためには、百聞は一見にしかずです。


西郷どん 第41話「新しき国へ」その1 ~岩倉使節団~_e0158128_15131733.jpg しかし、その時期とそのメンバーは、あまりにも無理がありました。廃藩置県発令後、諸藩のあいだに心配されたような反発は起こらなかったとはいえ、新しく設置された「県」がどのような動きを見せるかもまだわからず、その国家体制造りも、いまだ緒についたばかりでした。そのような不安定な時期に、政府首脳が挙って長期間日本を留守にするというのは、どう考えても無茶無責任といってよく、留守を預かることとなった太政大臣三条実美は、木戸に対して洋行を延期するよう懇願する手紙を送っています。当然の要求だったでしょうね。客観的に見て、少なくとも、大久保は残るべきだったでしょう。廃藩置県後の官制改革で、大蔵省民部省を併合して行政権の7割近くを占める巨大な官庁となっており、その責任者の大蔵卿である大久保は事実上の日本の首相であり、その首相が長期国を空けるというのは、どのような社会混乱を招くかわからない。しかし、大久保は強引に使節団に参加します。そして、その割りを食ったのが西郷隆盛でした。


西郷どん 第41話「新しき国へ」その1 ~岩倉使節団~_e0158128_15131310.jpg 留守政府を預かることとなった西郷は、参議中の筆頭格として、事実上留守内閣の首相という立場を押し付けられました。しかし、その西郷内閣は、欧米に旅立つ岩倉や大久保らとの間に大きな約束事を交わしていました。その内容は、内地の事務は使節団の帰国後に大いに改正するので、使節団の留守中は廃藩の後始末を主な業務とし、なるべく新規の改正を行わないといった約束で、それらを記した12ヵ条の誓約書を取り交わしていました。また、人事面においても、勅任官、奏任官、判任官の別なく、官員の増員を行わないという約定もありました。すなわち、西郷内閣は人事も政策決定もできない休眠政府として、ただ使節団の帰国を寝て待て、と言われたようなものでした。しかし、実際問題、何もせずに寝て待つなんて、不可能なことでした。


 明治4年11月12日(1871年12月23日)、使節団一行はアメリカの蒸気船「アメリカ号」に乗船し、横浜港を出発しました。その見送りの帰路、西郷は側にいた板垣退助に向かって、「あん船が沈みもしたら日本もずいぶんおもしろうなりもそ」冗談を言ったという有名なエピソードがあります。この冗談は冗談とも本気ともとれぬ不気味さがあるとして、当時、またたく間に留守政府の官員たちのあいだに広まったといいます。元来、ブラックジョークというのは、多少なりとも本音が隠れているものです。このときの西郷のジョークにどの程度本心が隠されていたかはわかりませんが、実際、この船がもし沈んでいたら、のちの西郷の運命もこの国のかたちも、大きく変わっていたかもしれません。見てみたい気がしないでもないと言ったら不謹慎ですかね。

明日に続きます。



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by sakanoueno-kumo | 2018-11-05 22:01 | 西郷どん | Trackback | Comments(0)  

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