西郷どん 第43話「さらば、東京」その1 ~明治6年の政変<征韓論反対派の裏工作>~

 ドラマはいきなり征韓論閣議から始まりましたが、ここに至るまでにも様々なドラマがありました。本稿では、その経緯をできるだけ手短に解説します。


e0158128_15131733.jpg 征韓論が閣議の議題にはじめてのぼったのは明治6年(1873年)6月12日で、その2ヶ月後の8月17日の閣議で西郷隆盛朝鮮国派遣内定しましたが、前話で描かれていたように、征韓論が唱えられる以前の5月26日に、すでに大久保利通は帰国していました。木戸孝允も、大久保に遅れること2ヶ月後の7月23日に帰国しています。しかし、ふたりともこの重大な問題に直接かかわろうとしませんでした。大久保は帰国するやいなや病気を申し立てて自邸に引きこもり、大蔵卿としての職務も引き続き大隈重信に代務させ、7月になると、静養のためとして夏期休暇をとり、近畿の名所旧跡をめぐる観光旅行に発ちました。木戸もまた、体調不良を理由に参議としての職務を休みます。大久保も木戸も、留守政府に対して強い不満を抱いており、ましてや、欧米の進んだ文明を目の当たりにしてきた彼らにしてみれば、いまの日本の国力で外征など愚の骨頂、まずは内治に力を注ぎ、富国強兵に努めるべきだと考えていました。しかし、自分たちだけで現行政府の暴走を抑えることはできない。ここは何としても岩倉具視の帰国まで時間を稼がねばならない。彼らにとってこの職務放棄は、重要な政治行動だったと言えるかもしれません。


e0158128_11234954.jpg 9月13日、岩倉が帰国しました。大久保はさっそく、太政大臣・三条実美と右大臣・岩倉具視に対して長文の意見書を提出しました。そのなかで大久保は、財政上の問題、政府内の機構の問題、欧米列強の野心と日本の国際間における位置の低さの問題など、あらゆる角度から我が国の現状を分析し、いま朝鮮を刺激することがいかに無意味で愚かなことであるかを説きました。大久保と同じく欧米列強の実情を見てきた岩倉は、大久保の説くところの正しさを十分に理解していました。岩倉は帰国するや否や、すぐさま50日間の休暇を願い出ます。理由は、岩倉の実父の服喪でした。岩倉はパリにいたときに実父の訃報に接しましたが、外遊中だったために喪に服することができませんでした。公卿の慣習では、父の忌は50日でした。岩倉はこれを理由に廟議の開催を50日伸ばし、にわかに沸騰した征韓論の政情に冷却を与えようとしたんですね。策謀家・岩倉具視にとっては、父の死も政略の道具でした。


 しかし、これに最も困ったのは、岩倉の帰国を待ち望んでいた三条実美でした。彼は彼自身の力ではとても西郷を始めとする留守政府の面々を抑えることはできず、ひたすら岩倉の政治力を期待し続けて待ちあぐねていました。三条は岩倉に服喪の短縮を懇願し、岩倉はやむなく7日間に縮めます。そしてこの7日間、水面下で政局打開の裏工作が繰り広げられるんですね。


 e0158128_21582847.jpgこのときもっとも活躍したのは、当時、工部大輔だった伊藤博文でした。伊藤は年も若くてフットワークも軽く、同じ長州藩出身の木戸とは縁が深く、また、外遊中に大久保にも気に入られ、同じ征韓論反対派でありながら反りが合わない大久保と木戸の間を周旋する存在としては、うってつけの役者でした。伊藤はまず、参議の職を捨てようとしていた木戸に対して説得を重ね、大久保が参議になるなら、自分も辞職を思いとどまると言わせるまでに事を運びます。大久保の参議就任は、岩倉も三条も望むところでした。そこで伊藤は、大久保邸に足繁く通い、説得を重ねます。


 しかし、大久保は容易に首を縦には振りません。その理由はいくつか考えられますが、まず挙げられるのは、国元の旧藩主である島津久光の存在があったからでしょう。久光は相変わらず、西郷と大久保が政府の大官になっていることを嫌いつづけていました。西郷が参議兼陸軍大将という重責を担っている以上、自身は大蔵卿という職にとどまっているほうが賢明と考えていたのかもしれません。また、もうひとつの理由としては、自身が参議になることによって、西郷と直接対決することになる。これをどうしても避けたかったのでしょう。これは、竹馬の友である二人の友情関係というような美談ではなく、大久保が恐れたのは、西郷の取り巻きだったと考えられます。西郷と対決するということは、西郷を慕う薩摩系近衛兵たちが暴挙に走り、自分は殺されるかもしれない。そう危惧していたのではないでしょうか。しかし、伊藤の熱心な説得に根負けした大久保は、10月8日、とうとう参議就任を受諾します。このとき大久保は、当時、アメリカに留学中だった長男と次男に宛てた遺書を残しています。まさに大久保は、一命を賭して西郷と闘う覚悟を決めていたんですね。


明日に続きます。


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by sakanoueno-kumo | 2018-11-19 01:19 | 西郷どん | Trackback | Comments(0)  

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