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西郷どん 第43話「さらば、東京」その3 ~明治6年の政変<政局の結末>~

 昨日の続きです。

 ドラマでは閣議1日で終わっていたかのようでしたが、実際には10月14日の閣議では結論に至らず、翌15日、改めて閣議が開かれました。しかし、通説では、この日、西郷隆盛は閣議を欠席したといいます。その理由は、自身の言い分は前日の閣議ですべて吐き尽くしたと判断し、採否は太政大臣をはじめとする他のメンバーに委ねたのではないかと言われています。この欠席が、西郷にとって功を奏することになるんですね。あるいは、自分がその場にいないほうが、自分の意見が重みを増すといった西郷の計算だったかもしれません。


 この日の閣議では、まず参議一同に対する意見陳述が求められ、その結果、『大久保日記』によれば、大久保利通を除く参議一同が西郷を支持する意見を表明したといいます。なかでも副島種臣板垣退助がとくに西郷の朝鮮派遣を強く求める態度を示しました。これに対し大久保は、猛烈に前日に主張した反対論を主張し、副島や板垣と激論を交わします。その結果、この日も閣議が紛糾したため結論を見ず、最終決定を三条実美岩倉具視の両人に任せることになりました。そして二人は別室で話し合いますが、ここで、優柔不断な態度を示していた三条が、にわかに西郷を支持する側にまわります。前稿で紹介した閣議前の西郷の脅しの手紙がきいていたのかもしれません。西郷を敵に回すということは、西郷を慕う薩摩系近衛兵たちを敵に回すことでもあり、争いごとを好まない三条には、大久保のような命をかけた覚悟などできなかったのでしょう。いずれにせよ、ここに西郷の朝鮮への派遣が本決まりとなり、あとは、手続き上、天皇に上奏して裁可を待つだけとなりました。


 西郷どん 第43話「さらば、東京」その3 ~明治6年の政変<政局の結末>~_e0158128_15131733.jpgこれに怒ったのは、大久保でした。大久保は参議に就任して西郷と対決するにあたって、事前に三条と岩倉に対して、くれぐれも意見を翻さないよう証文を取っていたといいます。幕末以来、大久保は公家の優柔不断さをよく知っており、もし、今回も土壇場で梯子を外されるようなことになったら、自身の政治生命も断たれることになる。大久保は二人を信用していなかったんですね。ところが、その心配どおり、やはり、土壇場で裏切られました。怒った大久保は、閣議が開催されるはずだった17日の早朝に三条邸を訪れ、参議の辞表を提出します。これには三条はよほどショックを受けたようで、『大久保日記』によれば、「よほど御周章の御様子に候」皮肉たっぷりに記しています。また、この大久保の辞表に追随するかたちで、木戸孝允と岩倉も辞表を提出しました。この事態を受けた三条は、今度は西郷を呼んで決定した閣議の内容を再検討するよう懇願しますが、当然、西郷はこれを拒絶します。こうなると、三条はもうどうしていいかわからなくなり、やがて重圧に耐えかねて錯乱状態になり、人事不省に陥ってしまいました。


 西郷どん 第43話「さらば、東京」その3 ~明治6年の政変<政局の結末>~_e0158128_11234954.jpgここから、また大久保、岩倉ら征韓論反対派の巻き返しが始まります。大久保は直ちに一策を講じ、同郷の黒田清隆を動かして宮中工作を図り、天皇から岩倉に太政大臣代行を命じるよう働きかけました。そして、その工作は見事に成功します。


 岩倉の太政大臣代行の就任を知った西郷は、10月22日に板垣退助、副島種臣、江藤新平三参議とともに岩倉邸を訪れ、15日の閣議決定通りに天皇に上奏するよう要請します。しかし、岩倉は、閣議での決定事項とともに自分の考えも同時に天皇に上奏すると応えました。彼らは、代行者が自分の意見を述べるのはおかしいとして岩倉を執拗に恫喝しますが、岩倉は一歩も引かず、そして岩倉の生涯で最も凄みのある台詞を吐きます。


「わしの目の黒いうちは、おぬしたちの勝手にはさせぬぞ!」


 有名なシーンですね。これ、描いてほしかったなあ。


 この岩倉の決死の覚悟を見た西郷は、もはや勝ち目はないと判断して席を立ちます。一同が岩倉邸を出るや西郷が振り返り、一笑してこう言ったとされます。


 「右大臣、よく踏ん張りもしたな」


 これまた有名なシーンですね。このときの西郷の姿を、板垣は生涯忘れられなかったと語っています。これも描いてほしかったなあ。


 かくして西郷ら征韓派の敗北が決定しました。西郷は10月24日、参議の辞表を提出。その翌日には、板垣退助、江藤新平、副島種臣、後藤象二郎の4参議も辞表を提出します。その後、大久保、木戸の辞表が却下され、ここに、いわゆる明治6年の政変は幕を閉じることとなります。


 明治6年の政変だけで3稿もかかっちゃいました。これでも、ずいぶん割愛したつもりです。これだけの人間模様が展開された物語の核と言ってもいい出来事なのに、ドラマではあまりにも簡素化して単純化した描き方になっていました。残念ですね。

 まだ書き足りないので、明日、もう一稿だけ、西郷と大久保の決別をやります。



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by sakanoueno-kumo | 2018-11-21 01:28 | 西郷どん | Trackback | Comments(2)  

Commented by heitaroh at 2018-12-04 16:06
私は三条が病床から這い出してきて、西郷を褒め、大久保が恐ろしいことを企んでいるなどと告げるシーンは、なーんか違和感ありましたねえ。
そこまでせずとも普通に流せばよかったのにと。
鶴瓶の岩倉は評判悪いですねえ(笑)。
Commented by sakanoueno-kumo at 2018-12-05 15:08
> heitarohさん

おっしゃるとおりで、あれでは、まるで三条は西郷に味方したかったけどできなかったように見えますよね。
違うんですけどね。
他にも、江藤や大隈や板垣らの描き方にしても、なんとも短絡的でツッコミどころ満載でした。
言い出したらキリがないほど。
通説を通説通りになぜ描かないんでしょうね?
変えて面白くなってるならまだ許せますが、変えてつまらないものにする意味がわからない。
ヒドイ政変でした。

たしかに、鶴瓶は岩倉じゃないですよね。
ちゃんとした俳優さんでやってもらいたかったです。
毎年、なぜか芸人枠があるみたいで・・・。

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