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いだてん~東京オリムピック噺~ 総評

 令和元年の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の全47話が終わりました。毎年、大河ドラマレビューを起稿してきた当ブログですが、今年は、主人公のふたりについての予備知識がほとんどなく、昨年、関連本を数冊読みかじっただけのにわか知識のみでレビューに臨んだのですが、どうにかこうにか今年も完走できて安堵しています。で、最後に、例年どおり今年の作品についてわたしなりに総括します。


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主人公は、日本人初のオリンピック選手となり、「日本のマラソンの父」と呼ばれた金栗四三と、昭和の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治の2人をリレー方式で描く形で、物語の舞台は、日本が初めて夏季オリンピックに参加した明治45年(1912年)のストックホルムオリンピックから、幻となった東京オリンピック開催を決めた昭和11年(1936年)のベルリンオリンピックを挟んで、昭和39年(1964年)の東京オリンピック開催までの52年間。つまり、日本のオリンピック史を描いたドラマでした。来年の令和2年(2020年)に行われる東京オリンピックに向けて、国民みんなで盛り上がっていきましょうって狙いで企画されたドラマだったのでしょう。


 で、わたしの個人的な感想を言えば、めっちゃ面白かった名作だったと思います。当初はあまり期待していなかったのですが、途中からめちゃくちゃ引き込まれた。知識がない分、先入観なくドラマとして観ることができ、ブログを更新するためにあとから調べてみると、実はかなり史実を忠実に描いていることがわかり、感心させられた話がいくつもありました。近現代史ですから、史実に縛られること大で、そこを忠実に守りながら面白くドラマとして描くのはかなりの腕が必要だと思うのですが、史実のエピソードに創作の伏線をうまく散りばめて、さすがはクドカンといった回がたくさんありました。


 ところが、巷の評価はどうも違ったようで、毎週月曜日に目にする記事は、「視聴率ワースト記録」といった酷評ばかり。残念です。どうも、戦国史、幕末史以外の作品は視聴率が取れないようですね。今回の場合、特に、戦史でも政治史でもなくオリンピック史ということで、放送開始前から「面白くなさそう」「今年はパス」といった声を多く耳にしました。視聴率低迷の1番の理由はそこに尽きるとわたしは思います。というのも、酷評の記事の内容はすべて低視聴率に関するものばかりで、内容を批判したものはほとんどなかった。毎年、脚本を批判する声が飛び交うのが大河ドラマの批評ですが、今年に限っていえば、毎週観ている人は、ほとんど批判の声がなかったんじゃないでしょうか。酷評しているのは、観ていない人ばかり。内容ではなく、「主人公の知名度が低い」とか「人気俳優さんの出演が少ない」とか、内容以外の低視聴率の原因を探って叩いているだけです。全部観てから言えよ、と言いたいですね。


 大河ドラマは歴史ドラマといえどもドラマである以上、大衆娯楽ですから、視聴率をひとつの指標として評価することは間違っていないと思います。ですが、高視聴率=名作低視聴率=駄作というレッテルの貼り方は、いささか短絡的すぎるのではないでしょうか。ただ高視聴率を取るという目的だけなら、無難な戦国史を旬のイケメン俳優さんを主役にして描いたら、それなりの数字にはなるでしょう。でも、じゃあ、それが名作かといえば、そうじゃないですよね。過去の作品を見ても、今年の『いだてん』が塗り替えるまで視聴率のワースト記録を持っていた平成24年(2012年)の『平清盛』は、わたしの中では名作のひとつですし、イケメン俳優さんが主人公だった平成22年(2010年)の『龍馬伝』は、イケメン俳優さんの力で高視聴率でしたが、わたしのなかでは駄作です。今年の『いだてん』でいえば、主人公2人を演じたふたりの俳優さんは、申し訳ないですが視聴率を稼げる旬のイケメン俳優さんではないですし、物語の舞台も、あまり人気のない近現代史。はっきり言って、NHKサイドも放送前から低視聴率は覚悟の上だったと思います。それでも、この時代を描くんだという制作サイドの意気込みが伝わってくる作品でした。それが出来るのが、スポンサーに媚びることなく作品づくりが出来るNHKの良さだと思います。だから、大河ドラマに限っていえば、視聴率が全てではないと思うんですね。


 ただ、こんな意見も耳にします。たしかに『いだてん』は面白かった。でも、これを大河ドラマと言えるかどうか・・・と。大河ドラマでなければ良い作品だったと思うけど、大河ドラマはもっと重厚で骨太な歴史ドラマであるべきだ、と。言いたいことはわからなくはないです。わたしも、実はそういう作品が観たいと思っているひとりです。でも、それも固定観念ですよね。戦史政治史だけが歴史ではありません。オリンピック史も立派な歴史。半世紀以上続く大河ドラマの中で、そういう作品があってもいいんじゃないでしょうか。ましてや、近現代史というのは、とかくデリケートな歴史観がつきまとい、描き方によっては思想的な批判の的になります。ところが、今回、オリンピック史を通して見た明治、大正、昭和だったので、第二次世界大戦の描き方についても、ほとんど思想的な批判はなかったと思います。見事でしたね。最終回の舞台となった昭和39年(1964年)の前年には、すでにNHK大河ドラマは始まっていました。その時代がすでに歴史となって、こうして大河ドラマで描かれている。改めて大河ドラマの歴史を感じます。


 さて、作品の内容についてですが、金栗四三田畑政治のふたりを主人公に描かれた物語でしたが、この物語の真の主人公は、実は嘉納治五郎ではなかったかとわたしは思っています。講道館柔道の創始者であり、「近代柔道の父」として後世に名高い嘉納ですが、今回のドラマを観て、改めて嘉納治五郎という人物の偉大さを知りました。幕末に生まれ、まだ「スポーツ」という言葉すら知られていない時代に、日本人初のIOC委員となり、日本のスポーツの道を開いた。政治家でも財界人でもないただのスポーツマンとして、この時代にこれほどグローバルな活躍をした人がいたということに、大きな感動をおぼえます。この人がいなければ、日本のスポーツの発展はずいぶん遅れていたでしょうし、あるいは昭和39年(1964年)の東京オリンピックもなかったかもしれません。嘉納治五郎といえば、「伝説の柔道家」という印象しか持っていなかった人がたくさんいたと思います。今回の作品では、そんな嘉納の功績がしっかり描かれました。こういう人がいたんだ・・・今回のドラマで初めて知ったという人がたくさんいたんじゃないでしょうか。


 もうひとりの影の主人公は古今亭志ん生でしたね。ドラマが始まった当初は、物語の本筋であるオリンピック噺と古今亭志ん生の生涯とを並行して描く設定の意図がよくわからなかったのですが、その長く壮大な伏線を回収したのが、第39話「懐かしの満州」でした。あれ、神回でしたね。鳥肌が立ちました。聞くところによると、もともと脚本家の宮藤官九郎さんが「満州の古今亭志ん生と戦争」を書きたくて着想したのがこの物語で、オリンピック噺は後付けだったとか。なるほど、だから志ん生が語り部だったんですね。あと、あの回は、主人公の金栗四三と田畑政治がほとんど出てきませんでした。私はこれまで当ブログにおいて、主人公が出ない回かあってもいいんじゃないか、と度々発言してきました。主人公を無理やり歴史上の出来事に絡めて出そうとするから、話が嘘くさくなって面白くなくなる。大河ドラマが歴史ドラマである以上、その流れのなかで主人公が出てこない回があってもいいと思うし、そうすることで、物語により厚みが出るとわたしは思います。今回、それを見事にやってのけていて、それがまた素晴らしい出来でした。


 あと、ふれておかねばならないのは、本作品は俳優さんの不祥事やアクシデントに泣かされた作品でしたね。高橋是清役の萩原健一さんが亡くなられたのは仕方がなかったにしても、ピエール瀧さんと徳井義実さんの不祥事については、残念の一言につきます。たぶん、本当は前半もっと足袋屋のエピソードがあったんじゃないでしょうか。徳井さんのシーンについては、撮り直しは不可能ということで、ドラマ全体の流れを損なわないよう再編集した内容で放送されたとのことですが、どの程度カットされたのかはわかりません。あるいは、建前上そう言っているだけで、実は予定どおりに流していたかもしれませんが、それはそれでいいんじゃないかとわたしは思います。そうしていたとしても誰もわかりませんし。


でも、ピエール瀧さんのシーンに関しては、事件以降はすべて撮り直しとなった。この差は、物理的に撮り直しが可能か不可能かにもよるかと思いますが、ピエール瀧さんは逮捕されて容疑者となりましたが、徳井さんは逮捕はされていない。その差も大きかったんじゃないでしょうか。こういう問題が起きたとき、いつも、賛否両論の意見が飛び交いますが、「作品には罪はない」という論点から言えば、わたしも、すでに撮り終わっているものまでお蔵入りさせる必要はないと思うのですが、それも、その罪の度合いによりますよね。徳井さんの場合、あのまま流しても許されるレベルの罪だった。でも、極端なはなし、じゃあ、出演者が殺人事件を起こしたら・・・? それは絶対放送できませんよね。じゃあ、傷害事件だったら? 麻薬は直接的な被害者がいないからOK? ・・・てな具合で、結局、どこまでがセーフでどこからがアウトかの線引きが難しいですよね。今回はピエールさんも徳井さんもそれほど重要なキャストではありませんでしたが、来年の大河では、準主役ともいうべき女優さんの不祥事で、いま大変なことになってますよね。まずは出演者の身辺調査の強化が最重要課題でしょうね。


 さて、連連とウンチクを垂れてきましたが、今年の大河ドラマを一言で表すならば、「お見事!」という言葉に尽きると思います。「上手い!」と唸らされることが度々だった作品でした。クドカンらしいクドカンの大河作品だったといえるでしょう。いろんな意見があるかと思いますが、わたしのなかでは名作のひとつに数えられる作品です。視聴率は低かったですが、わたしと同じ感想を抱いている人もたくさんいるんじゃないでしょうか。何年か後に評価される作品かもしれません。そう願いたいですね。


 とにもかくにも1年間楽しませていただき本当にありがとうございました。このあたりで私の拙い『いだてん~東京オリムピック噺~』のレビューを終えたいと思います。毎週のぞきにきていただいた方々、時折訪ねてきてくれた方々、コメントをくださった方々、本稿で初めてお会いした方々、どなたさまも本当にありがとうございました。


●1年間の主要参考図書

『金栗四三と田畑政治 東京オリンピックを実現した男たち』 青山誠

『金栗四三 消えたオリンピック走者』 佐山和夫

『嘉納治五郎 オリンピックを日本に呼んだ国際人』 真田久

『明治大正史』 中村隆英

『昭和史』 半藤一利

『昭和史戦後編』 半藤一利


参考にしたサイト

公益財団法人日本オリンピック委員会



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by sakanoueno-kumo | 2019-12-18 00:03 | いだてん~東京オリムピック噺~ | Trackback | Comments(2)  

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Commented by 60代の歴史好きのおじさん at 2019-12-19 12:24 x
1年間お疲れ様でした。私は今年は見るつもりはなかったのですが、娘が凄く食いついて「面白い」というものでついつい全編鑑賞しました。ブログ主さんの総評はいちいちおっしゃるとおり、激しく同意します。やはり影の主役は「嘉納治五郎」ですね。赤穂浪士より見続けて、こんなに泣けた大河は初めてでした。さすがクドカンでした。来年の「麒麟がくる」の解説も楽しみにしております。よいお年をお迎えください。
Commented by sakanoueno-kumo at 2019-12-20 13:56
> 60代の歴史好きのおじさんさん

コメントありがとうございます。
RES遅くなってスミマセン。
先週、今週と連夜の忘年会つづきでバテバテです(笑)。

貴兄もハマってましたか!
嘉納治五郎はわたしの住む神戸出身で、会社の近くにある御影公会堂には嘉納治五郎の銅像もあるのですが、それでも、そこまで嘉納のことを詳しく知りませんでした。
改めて、すごいオッサンがいたんだなあと。

来年は光秀ですね。
王道の大河ドラマが観られるかもしれないと期待しています。
来年も宜しくお願いします。

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