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映画『望み』に見る、父親と母親の望みの違い。

先日、堤幸彦監督の映画『望み』を観てきました。

最近、子供が大きくなったのと、50歳以上の夫婦割引で安く映画が観られるようになったこともあり、妻とよく映画を観に行くようになったのですが、さすがにこの歳になると、ラブストーリーとかには大きな感動を覚えることはなくなりました(少しはジーンときたりしますが)

残念です(笑)。

一方で、親子ものとか家族ものになると、妙に心に響くようになりましたね。

歳食ったってことでしょうか?

その意味で、この『望み』という映画は、最近観た映画では一番心を動かされました。


映画『望み』に見る、父親と母親の望みの違い。_e0158128_20214326.jpg


ここからはネタバレを含みますので、これから観る予定でまだ観てない方は、読むか読まないかは自己責任でお願いします。


設定は建築家の父・石川一登(堤真一)、自宅で出版物の校正の仕事をしている母・貴代美(石田ゆり子)、ケガでサッカーの道を諦めたばかりの高校生の息子・規士(岡田健史)、有名高校への受験を控える中学生の娘・雅(清原果耶)4人家族の物語で、なんの不自由もなく幸せそうに見えた家族の暮らしが、高校生の息子が夜に出かけたまま失踪してしまったことから一変し、同じ日に彼の同級生が遺体となって発見され、警察から息子が事件に関与している可能性があると告げられたことによる家族の心の揺れ動きが描かれています。


タイトルである『望み』とは、息子が失踪してから見つかるまでの、家族それぞれの「望み」を意味しているのでしょう。

事件に関与したと見られる失踪した少年は3人で、そのうち2人が事件の加害者で、もうひとりは、殺されている可能性が高い。

そんななか、父の一登は、息子が加害者でないことを望み、母の貴代美は、息子が被害者でないことを望みます。

これ、ものすごく的を射ていると思いますね。

ずいぶん昔、いわゆる“酒鬼薔薇聖斗事件”を題材にしたと思われるTVドラマが放送されていたとき、妻と被害者の親加害者の親について話をし、当ブログでもその話を紹介したことがありました(ドラマ『それでも、生きてゆく』に思い出す、14年前のあの事件)。

そのとき、究極の選択として、被害者の親と加害者の親とどちらになりたくないかと妻に質問したところ、妻は迷わず被害者の親と答え、私は加害者の親といいました。

これは、男と女の違いかもしれず、父親と母親の違いかもしれない、と述べたのですが、この『望み』では、まさしくその姿が描かれていました。


息子が人を殺すなんて思えない、思いたくない、息子を信じたいと願う父親。

息子がたとえ罪を犯していたとしても、生きていてくれさえいればそれでいいと願う母親。

もちろん、被害者でも加害者でもないというのが一番の望みですが、そのどちらかの可能性しかない状況に立たされた場合、父親と母親の思いは、おそらく、ほとんどの親がこの映画と同じになるのではないでしょうか。

わたしも、同じ状況に立たされたら、きっとこの父親と同じ行動に出ると思います。

ギリギリまで息子を信じたいと思うでしょうし、でも、取り上げた刃物が無くなっていたことに気づいたとき、さすがにその思いは崩れて絶望したでしょう。

でも、その刃物が息子に部屋で見つかり、息子が加害者でないと確信したとき、わたしも同じように被害者の葬式に向かうと思います。

たぶん、ほとんどの父親がそうなんじゃないでしょうか?


逃亡していた少年の一人が捕まったとき、息子が捕まるのも時間の問題だと思い、その息子に差し入れするために好物のハンバーグをねる母。

これも、たぶん、ほとんどの母親がそうするんじゃないでしょうか?

生きているかどうかもわからない息子のために、何かに取り憑かれたように必死で差し入れを用意するあのシーン、いたたまれなかったですね。

また、「お母さんの前では言えないけど、お兄ちゃんが犯人だったら、困る。」といった妹の台詞も、正直な気持ちだと思います。


映画館には、若いカップルや息子・規士役の岡田健史くんのファンと思われる若い女の子がたくさん観に来ていましたが、あの親心、理解できたでしょうか?

わたしが思うに、この映画を本当の意味で理解出来るのは、40代以上で、中学生以上の子供を持つ親じゃないと、難しいんじゃないかと・・・。

夜遅くなっても帰って来なくて、LINEで連絡してもなかなか既読にならない。

あのときの親の心配なんて、若い子には絶対わからないでしょう。

逆に、高校生や大学生を持つ親なら、ほとんどの人が身につまされる思いだったんじゃないでしょうか?


息子を信じたい父と、息子を守りたい母。

物語の結末は、父の望みが叶い、母の望みは絶たれました。

でも、しばらく月日が経って、母親が言います。

「私達家族は、規士に救われました。」

もし生きていたら、一時的にはほっとしかもしれないが、その後、加害者の家族として一生苦しんで生きていくことになっただろう・・・と。

物語としては、この着地点しかなかったでしょうね。

わたしも、そう思います。

でも、実際には、本当にこの立場になってみないとわからないでしょうね。

となれば、一生わかりたくない、というのが、この映画を観た感想の結論です。

重いテーマの映画でした。



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by sakanoueno-kumo | 2020-10-13 23:59 | 映画・小説・漫画 | Trackback | Comments(0)

 

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