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青天を衝け 第27話「篤太夫、駿府で励む」 ~商法会所と合本主義~

 駿府で謹慎中の徳川慶喜民部公子(徳川昭武)からの手紙を届けた渋沢栄一は、駿府藩(この約半年後には静岡藩になります)から仕官を命じられます。今回描かれていた経緯は、ほぼ史実どおりでした。栄一はこのときのことを自伝『雨夜譚』で詳しく述懐しています。以下、『雨夜譚』を元に解説します。


青天を衝け 第27話「篤太夫、駿府で励む」 ~商法会所と合本主義~_e0158128_16431652.jpg 慶喜との面会を終えた栄一は、昭武への返書を受け取って水戸に持ち帰るため、旅宿に逗留していました。しかし、1日経っても2日経っても何の音沙汰もなく、4日目になってようやく藩庁から呼び出しがかかります。すぐに出頭したところ、駿府藩の勘定組頭を申し付けるとの辞令を渡されました。そこで栄一は勘定所に行って勘定頭の平岡準蔵小栗尚三の二人に面会し、「拝命はありがたいく仕合せではあるが、前公(慶喜)から公子(昭武)への御返書があるであろうから、それを拝受して一旦復命した後であればともかく、そのことを果たさずに今日の拝命は、はなはだ迷惑だから御請け致しかねます。なにぶん早く御返事を伺って水戸まで往きたいゆえ、そのことの御取り次ぎを願いたい」と言いました。ところが、平岡が中老に聞きに行って返ってきた言葉は、返書は別の使者を出して水戸へ届けるから、足下(栄一)が持っていく必要はないといわれます。これを聞いた栄一は激怒。辞令書を平岡の前に投げ出し、そのまま旅宿へ帰ってしまいます。


平岡はすぐさま大坪某という勘定所勤務の役人を旅宿に遣わし、子細を問いました。このときの栄一の答えが、『雨夜譚』に長々と書かれているのですが、全文拾い上げるとめっちゃ長くなるので、かいつまんで要約すると「自分は七十万石に封ぜられて窮乏している駿府藩の禄を貪るつもりで来たわけではなく、公子(昭武)の手紙を前公(慶喜)に渡し、その御返事を公子に届けるためにここへ来たのに、その役目はもういいからここで勤務せよとは、道理がわからないにもほどがある。そんなことだから幕府は潰れて今の有様なんだ。そんな腐った人たちが揃っている駿府では、自分は働けない」とのこと。気持ちはわからなくもないですが、ちょっと言いすぎ、暴言ですね。


青天を衝け 第27話「篤太夫、駿府で励む」 ~商法会所と合本主義~_e0158128_15030167.jpg すると翌日、中老の大久保一翁から呼び出しがありました。そこで栄一は大久保からこんこんと説得されます。大久保いわく、この辞令は前公(慶喜)の取り計らいであるとのこと。もし栄一が返書をもって水戸へ行けば、民部(昭武)は栄一を手元に置いて重用するだろう。そうすると、水戸の連中の妬心を招いて、身に災いを及ぼすおそれがないとも限らない。だから、このまま駿府にいた方が身のためだ、ということでした。慶喜は、栄一を平岡円四郎原市之進のような目に遭わせたくないと考えたうえでの配慮だったんですね。これを聞いた栄一は、自身の浅はかな早合点暴言を深く恥じ、慶喜に対する敬慕の情をいっそう深めました。


青天を衝け 第27話「篤太夫、駿府で励む」 ~商法会所と合本主義~_e0158128_15043712.jpg ただ、水戸に行かないことは承知したものの、勘定組頭の職は頑なに受けませんでした。それは、窮乏している駿府藩の禄を食む気になれなかったというのもありましたが、ひとつには、パリで得た知識を生かして殖産事業を起こしたいという思いがあったからでもありました。そこで栄一は、静岡紺屋町に「商法会所」という会社を興します。当時、新政府は「石高拝借」という名目で諸藩に金を貸していました。明治初頭、新政府はその窮乏から、新紙幣を発行していました。有名な「太政官札」ですね。その発行額はおよそ4800万両といわれますが、出来立てホヤホヤの新政府の信用はまだまだ薄く、太政官札は一向に民間に流通しませんでした。そこで、それを全国的に流通させるため、諸藩の石高に応じて新紙幣を貸し付け、年三分の利子で13ヵ年間で返済させる制度を設けたのです。駿府藩にも53万石の石高拝借がありました。


 栄一はこれに目をつけ、平岡準蔵にこの金の運用法について相談します。それが、商法会所でした。会所の業務は商品担保の貸付、定期、当座預金、米や肥料の販売、製茶養蚕など。現在の銀行と商社をミックスしたような半官半民の会社で、その資本金に、石高拝借の金や、商人たちからの出資を集めて充てました。栄一はこれを「合本法」「合本主義」と名付けました。明治2年(1869年)2月の開業といいますから、おそらく日本で最初に設立された株式会社だったでしょう。これが、新しい日本の営利事業のひとつのモデルケースとなります。いよいよ栄一の本領発揮の時代に入りましたね。


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by sakanoueno-kumo | 2021-09-20 15:06 | 青天を衝け | Trackback | Comments(0)  

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