映画『燃えよ剣』鑑賞備忘録
先日、映画『燃えよ剣』をようやく観てきました。
監督は原田眞人、主人公の土方歳三役を岡田准一、原作は言うまでもなく故・司馬遼太郎の小説で、司馬ファンとしては観なければならない作品と言っていいでしょう。
もっとも、司馬×原田×岡田の組み合わせでいえば、思い出されるのは2017年公開の映画『関ヶ原』。
これが、お世辞にも良い作品とはいえなかった。
長編小説の映画化だけに、ダイジェスト版のような構成になるのは仕方がなかったにせよ、その取捨選択がまずい上に、フィクションの設定も稚拙だったため、正直がっかりな作品でした。(参照:映画『関ヶ原』鑑賞記)
今回も司馬さんの長編小説の映画化、果たして『関ヶ原』の二の舞になるのでは・・・と、一抹の不安を抱きながら映画館に足を運んだのですが・・・。

ここからはネタバレになりますので、これから観る予定でまだ観てない方は、読むか読まないかは自己責任でお願いします。
結論からいえば、今回はめっちゃ良かった!
『関ヶ原』とは違いました。
ダイジェスト版のような構成という点では同じでしたが、その取捨選択に無理がなかったのと、ナレーションを土方本人の述懐としたところもダイジェスト的に感じさせない演出で良かったんじゃないでしょうか。
小説『燃えよ剣』は新選組と幕末を舞台にした物語ですが、主人公はあくまで土方歳三。
土方の生き様を描いた物語です。
百姓あがりであるが故に、武士以上に武士であろうとした。
その土方という男の魅力が存分に伝わってきました。
『関ヶ原』のときは、石田三成の魅力が描き切れていなかった。
歴史の物語といっても、結局はヒューマンドラマですからね。
人間をしっかり描かないと、何も伝わりません。
『関ヶ原』のときはそれが出来ていなかったから、ただの歴史ダイジェストになっちゃっていたのですが、今回は土方という人物をしっかり描きこんでくれていました。
大違いでしたね。

物語は「バラガキ」と呼ばれた武州多摩の時代から、京都の新選組時代を経て、箱館戦争で落命するまでの約6年間を舞台としています。
本来であれば、大河ドラマにしてもいいぐらい内容の濃い6年間ですが、2時間半という尺のなかで、大きくは武州多摩時代、新選組結成期、新選組隆盛期、新選組末期、そして箱館戦争と、5ブロックに分けた構成になっていました。
これだけ詰め込んでいながら、新選組結成時の芹沢鴨の暗殺、隆盛期の池田屋事件のシーンはしっかり尺を使って迫力満点の殺陣を見せてくれています。
新選組の最大の見せ場といってもいいですからね。
芹沢暗殺までの流れについては、原作小説よりも、同じく司馬氏の短編集『新選組血風録』の「芹沢鴨の暗殺」を参考にしていたと思われ、これまた司馬ファンにとってはグッドな演出でしたね。
お雪との出会いのシーンでは、斬り合いで負傷した土方を手当てしたのがお雪との出会いというのは原作どおりでしたが、その斬り合いの相手が、なぜか土佐の岡田以蔵でしたね。
原作では岡田以蔵は登場せず、このときの相手は七里研之介です。
七里研之介は原作小説の架空の人物ですが、武州多摩の時代からの因縁の喧嘩相手で、原作小説では節目節目で出てきては土方と刀を合わせ、最期は土方に斬り殺されます。
ところが、映画では殺されずに、最後は新政府軍の幹部になっていましたね。
まあ、元々架空の人物だからキャラ変更は有りだとは思いますが、よくわからない設定でした。
七里との因縁は原作小説では裏ストーリーとして面白いところですが、本筋とはあまり関係ないところなので、これを描くと尺が足りない。
だから削っちゃっていいとは思うのですが、だったら無理に七里を出す必要もなかったように思います。
お雪も架空の人物ですが、原作小説のキャライメージを壊すことなく、良かったんじゃないでしょうか?
何より、柴咲コウさんが美しい!
(『関ヶ原』のときの初芽はわけのわからない女忍者に設定変更されちゃって、キャラ崩壊してましたからね)
ただ、箱館までやってきたお雪が、野戦病院で負傷兵の看護をするという設定は、原作小説にはありません。
原作では死を覚悟した土方と一夜を共にするだけです。
このあたりは、昭和の小説と令和の映画の女性観の違いでしょうか?
他の登場人物でいえば、鈴木亮平さんの近藤勇はハマリ役でしたね。
あんな顔ですもんね。
山田涼介さんの沖田総司は、まあ、よくある沖田像でしょうか。
だいたい色白な美少年系の人がキャスティングされますから。
伊藤英明さんの芹沢も、粗暴だけど品があるという魅力的なキャラでした。
あと、意外に面白かったのが、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんが演じた山崎烝。
最初はだれかわかりませんでした。
パンフレットのインタビューによると、山崎の台詞は台本ではほとんど白紙だったそうで、現場で監督から「山崎、任せるよ」と言われてアドリブだったそうです。
それであれは、すごいですね。
登場人物で不満だったのは、山田裕貴さんの徳川慶喜でしょうか。
山田くんが悪いわけではなく、あのキャラ設定がどうも・・・。
あそこまでおどおどした不甲斐ない将軍に描くことはなかったんじゃないの!・・・と。
新選組を含む幕府軍を置き去りに逃げた将軍ということでああなったのでしょうが、慶喜には慶喜の考えがあったわけで・・・。
で、何といっても素晴らしかったのは、やはり土方役の岡田准一さんでしょうね。
どこからどう見ても土方にしか見えなかった。
容姿もさることながら、眼光の鋭さ、キレッキレの殺陣、ひとつひとつの台詞の声の張り、ケチのつけようのないカッコ良さです。
大河ドラマのときの山本耕史さんの土方もハマリ役でしたが、超えたんじゃないでしょうか?
見事な鬼の副長でした。
その土方のいちばん好きな台詞。
大政奉還後、沖田の「新選組はこの先、どうなるのでしょう?」という問いに対して、土方はこう言います。
「どうなる、とは漢(おとこ)の思案ではない。婦女子のいうことだ。おとことは、どうする、ということ以外に思案はないぞ」
くぅ~!! カッコイイ!!!
この台詞は原作小説そのままで、大好きな台詞です。
映画では、これを岡田くん演じる土方は、サラッと吐いていました。
それがまたカッコイイ!
また、箱館でのラストシーン。
単騎、敵軍の参謀府に駒を進めた土方は、敵兵から「名は何と申される」と問われますが、「函館政府の陸軍奉行」とはどういう訳か答えたくなく、こう答えます。
「新選組副長土方歳三!」
これに仰天した新政府軍は、「降伏の軍師ならば作法があるはず」と重ねて問いかけますが、土方は、こう吐き捨てて駒を進めます。
「降伏? 新選組副長が参謀府に用がありとすれば、斬り込みにゆくだけよ!」
くぅ~!! カッコイイ!!!!!!
このあと敵弾に倒れます。
これ、原作小説のラストをそのまま忠実に描いていました。
このときの岡田くん、土方が憑依しているかのようでした。
岡田土方、最高です。
岡田准一さん主演の映画は、過去、『関ヶ原』『永遠の0』『海賊と呼ばれた男』『天地明察』の4作を観ましたし、もちろん大河ドラマ『軍師官兵衛』も全話観ましたが、今回の土方歳三がいちばんハマリ役だったんじゃないでしょうか?
キャスティングやストーリーの話ばかりしてきましたが、映像も美しくカメラワークも迫力満点でした。
2時間半という昨今では長めの映画でしたが(昔は3時間越えとか普通にありましたよね)、エンドロールが始まっても、誰一人席を立たなかったのが印象的でした。
わたしはいつもエンドロールの最後まで席を立たない派なんですが、まだ終わっていないのにゾロゾロ席を立ち始めると、けっこう耳障りなんですよね。
とにもかくにも、期待以上にいい出来でした。
最後に、司馬さんの原作小説から一文を抜粋します。
歴史は、幕末という沸騰点において、近藤勇、土方歳三という奇妙な人物を生んだが、かれらが、歴史にどう寄与したか、私にはわからない。
ただ、はげしく時流に抵抗した。
すでに鳥羽伏見の戦い以降、それまで中立的態度をとっていた天下の諸侯は、あらそって薩長を代表とする「時流」に乗ろうとし、ほとんどが官軍となった。
紀州、尾州、水戸の御三家はおろか、親藩、さらに譜代筆頭の井伊家でさえ、官軍になった。
徳川討滅に参加した。
と書けば、時流に乗ったこれら諸藩がいかにも功利的に見えるし、こっけいでもあるが、ひとつには、京都朝廷を中心とする統一国家の樹立の必要が、だれの眼にもわかるようになっていたのである。
かれらは、
「日本」
に参加した。
戦国割拠以来、諸藩が、はじめて国家意識をもったことになる。
しかし、「日本」ではなく、薩長にすぎぬという一群が、これに抵抗した。
抵抗することによって、自分たちの、
「侠気」
をあらわそうとした。
最後の最期まで侠気を貫いたラストサムライ土方歳三。
司馬さんの描く土方は、令和の今も、どこまでも魅力的です。
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by sakanoueno-kumo | 2021-12-23 23:29 | 映画・小説・漫画 | Trackback | Comments(10)
観に行こうと思いつつ・・・・
2時間強の上映時間に我が膀胱が耐えられるか
自信が無く行かずじまいでおりました。
やっぱ岡田君良い! 最後は後ろから撃たれて
終わるのか、それが知りたいからレンタルとかネトフリに回ってくるまで待ちます(汗)
そうだった!
忘れてた!
貴ブログで砥峰高原がロケ地になったってこと聞いていたのに、すっかり忘れていました。
おそらく箱館戦争のシーンですね。
映画は期待以上に良かったですよ。
岡田くんカッコいい!!
彼は国宝指定です(笑)。
ちょっとよく描かれ過ぎだとは思いながらも、わかっているはずなのに・・・、結構、うっ・・・と。
男とは単純な生き物です(笑)。
私が一番印象に残っているのは、岡田以蔵と斬りあいながら、「これでいいのか?」とか何とか言ったら、以蔵が「わしはあほやから、わからん」とか言って、また、切り結ぶシーンでした。
次が、土方が写真撮っているときに、近藤、沖田、井上らが出て来て笑っているシーンでしょうか。
ちなみに、井上源三郎役の人は以前、博多が舞台の舞台で主役を務めており、私には「あー、あの人かぁ」って別の感慨がありました。
貴兄も感動されましたか。
おっしゃるように、わかっているはずなのに感動できるっていうのは、それだけ描き方がよかったからでしょうね。
>ちょっとよく描かれ過ぎ
たしかにそうですが、でも、芹沢の暗殺シーンなどは横に寝ていた女も一緒に殺すなど、負の部分もちゃんと描いていたのは好感持てました。
源さん、年食いすぎでしょ!(笑)
試衛館出身の仲間では最年長だったとはいえ、実際は40歳そこそこだったわけで。
いえいえ、明治中期の日本人男性の平均寿命42.8歳というデータがありますから。
私が子供の頃、昭和30年代でも、40歳過ぎたら、髪は白いし、歯は無いし、初老でしたよ。
磯野浪平が55歳なんですから、今の我々が若すぎるんです。
平均寿命が短かったというのは承知していますが、それは年を取るのが早かったというわけではなく、夭折する子供が多かったのと、医学が発達していなかったため不治の病が多かったというだけで、長生きする人はしていたでしょうし、健康な30歳、健康な40歳の人は、今とそれほど変わらないんじゃないでしょうか?
龍馬や中岡、木戸、土方や近藤、皆、写真を見るかぎり年相応ですよ。
ちなみに今調べたら、源さんは享年39。
近藤より5歳上、土方より6歳上なだけです。
映画の源さんと土方はどう見ても親子、沖田は孫でしたね。
それは夭逝をいれるからでしょって言われますが、いれないでその数字です。
入れると、14歳になり、もはや、平均年齢が成り立ちません。
ただし、戦国武将は40代で自然死したのは上杉謙信くらいで、これにはトリックがあります。
その件はまた、今度。
夭折の件はそうかもしれませんが、大人も、今なら何でもない病気で簡単に死んでたってのはそうでしょう?
結核なんかもそうですし、たぶん、ただの風邪でも怪我でも、抗生物質とかないから、つい先日まで元気だった人が簡単に死んでいたでしょう。
それで平均寿命は低かったでしょうが、早死にする人が多かったのと老いが早いというのは種類が違うと思います。
私が子供の頃、もう、40代は髪は白いし、歯は無いし、初老でした。(先述の通りです。)
一つには栄養価が低かったし、それほど、バランス良い食事もとれてなかったというのがあるのでしょう。
昔、瀧田栄がタイムトラベルして、江戸時代に行くというのがありましたが、江戸で知り合った医者夫人の藤田弓子は実際には40代だったのでしょうが、役では28歳。
当時は28歳はもう、おばさんだったということです。
これ以上はまた後日。
明けましておめでとうございます。